「大丈夫だ。
おそらく君はその時に頭を強く打ったのだろう。
そのせいで、記憶が欠落しているようだ。
頭痛もすぐにおさまるはずだ。
もし、心配なら鎮痛薬を処方しようか?」

「いや…良いよ。
しばらく横になってたら、おさまるだんだろ?
それよりも、ここのことや…」

「そのことなら、頭痛がおさまってからにしよう。」

ピーターはクロードのことを信頼出来る人間だと感じたのか、その言葉に従い、そっと目を閉じた。







「し、信じられない!
そんなこと…!!」



ピーターは、頭痛がおさまったといって、夕食の場に現れた。
姿、形は何ひとつ変わっていないというのに、その表情や歩き方は、今までのピーターとは別人のようだった。
食事のたべっぷりもまるで違っていた。
今までは、自分では食べる事も出来なかったのが、フォークとナイフをごく自然に操り、食べ物を口に運んでいる。
私達の目にはそんなピーターの様子が不思議に映り、ついじろじろとみつめてしまったことで、彼は不快感を露わにした。
クロードは、ピーターをなだめ、今までの彼がどのような状態だったかを説明した。



「先生…本当に本当なのか?
俺が、そんな腑抜けになってたなんて…
確かに、記憶はない…
でも、あの荒地で転んでから、そんなに長い時が流れてたなんて…俺にはとても信じられない…」

そう言って、ピーターは頭を抱えた。



「君がそう思うのも無理はない。
脳というのはとてもデリケートなものでね。
記憶を失う場合にも様々な症例があるんだ。
実は、このマルタンさんも、以前、記憶を失っていたのだが、記憶を取り戻してからも、記憶を失ってる時のことをはっきりと覚えていた。
マルタンさんは、記憶を失ってる時もそのこと以外には特に問題はなかったが、君は、記憶だけではなく心も失っていた。
言葉を話すことすら出来なくなっていた。
でも、そういう症例もけっこうあるんだよ。
だが……」

「何なんだい?」

「……そういった場合には、元の状態に戻るまでに時間がかかるのが普通だ。
これほど急激に元に戻るのは、珍しいと思うよ。」

その言葉に、ピーターは複雑な表情を浮かべた。


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