診察をしようとクロードが差し伸ばしたその手を、ピーターは振り払った。



「俺はどこも悪い所なんかない。」

そう言って、ピーターはクロードを睨みつけた。



「そうか…わかった。
では、少しだけ質問をさせてくれ。
君は、今、ここにいる誰かに見覚えはあるか?」

ピーターはゆっくりと首を振る。



「誰も知らないな。
そもそもここがどこで、なんで俺がこんな所にいるのかさえ、皆目わからない。」

「そうか…では、君が記憶している中で、一番新しい記憶を話してくれ。
なんでも良いんだ。
覚えてることを聞かせてくれ。」

「新しい記憶…?
よくわからないが…とにかく、俺は旅をしていたんだ。
特にあてのない旅だ。
俺のいた村は何もない貧しい村で、俺は、両親とも折り合いが悪くて毎日喧嘩ばかりしてた。
些細なことで親父と言い争って、村を飛び出して以来、あちこちをふらふらしてるんだ。
ある町で、呪われた戦場の跡があるって話を聞いて、俺はそこに向かった。
ところが、苦労して着いてみると、そこはただの荒地だった。
何もないんだ。
しばらく歩くと小屋らしき明かりが見えた。
暗くなってたことだし、とりあえず、そこに行ってみようとして……それで……」

ピーターの言葉が不意に途絶えた。



「ピーター、そこから先は思い出せないのか?
何かなかったか?
……そうだな……たとえば、誰かに襲われたとか……」

「……いや……そんなことは何も…
なんせ、周りには誰もいなかったんだ。
俺は、酔ってたけどそのくらいのことは覚えてる。」

「酔ってた?
君はその時、酔ってたのか?
どのくらい酔っていた?」

「どのくらいって…俺は子供の頃からほとんど毎日飲んでるから酒には強くて記憶をなくすようなことはめったにない。
あの時は………そうだ!
俺は確かあの時、転んで…それから……」

ピーターは言葉を切り、苦しそうな低いうめき声をあげた。



「ピーター、無理に思い出さなくても良い。
さぁ、少し横になった方が良いぞ。」

「俺…どうなっちまったんだ?」

ピーターは先程とは違い、素直にクロードの言うことを聞いてベッドにその身を横たえた。


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