「マルタンさん、お疲れ様でした!」

私達が戻ると、玄関先でクロワが出迎えてくれた。



「クロワさん、子供達は…ピーターは大丈夫でしたか?」

「ええ…子供達はさっきおやつを食べさせたら、もう何事もなかったかのように元気に遊んでます。
ピーターは、今、注射で眠ってます。
それで……神父様はご一緒じゃないのですか?」

「神父様なら、あのまま教会へ戻られましたよ。」

私がそう言うと、クロワは教会へ走って行った。
神父に何か渡さなければならない書類があったようだ。

子供達の部屋からはクロワの言っていた通り、いつもと変わらない元気な声が聞こえ、私はほっと胸を撫で下ろしながらピーターの部屋を訪れた。
ピーターはまだ眠ったままで、ベッドの脇でシスターキャロルとリュックが心配そうに座りこんでいた。



「リュック、ピーターはどうなんだ?」

「あ、マルタン…
先生が言うには、やっぱり爺さんが死んだことでなんらかのショックを受けたんだろうってさ。
身体の問題じゃなさそうだ。
でも、ピーターが爺さんの死を理解出来ること自体が不思議だって言ってたけどな。」

「そうか…
彼は死を理解しているというよりは…何か、こう、本能的な何かを感じ取ったのかもしれないな。」

「そうだな。
なんだかんだ言っても、こいつが一番信頼してたのは爺さんだろうからな。
ピーターはあんな調子でも、きっと、魂みたいなもんがわかってるんだろうな。」

こんな話は、クロードに言えば一笑に付されるのが落ちだが、私にはなんとなくわかるような気がした。
医学で解明されてはいなくとも、きっとこの世には魂というものがあり、それらは時に奇蹟と思えるような出来事を引き起こす。
今回のピーターの異変も、大袈裟に言えばそんな奇蹟の一つなのかもしれない。
今のピーターには死というものが頭では理解出来ない筈なのだから。
彼の感情はほとんど失われたままなのだから…




「リュックさん、マルタンさん、ピーターのことは私が看ていますから、あなた方はどうぞあちらで寛いでいて下さい。」

部屋にいても私達に出来ることはない。
却って、私達がいては彼女が落ちつけないかもしれないと考え、私とリュックはピーターの部屋を後にした。


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