「トーマスさん!!」

「まさか……!」

私達はトーマスの亡骸を荷車に載せ、沈んだ気持ちで孤児院に戻った。
変わり果てた姿のトーマスを見て、皆、信じられないといった表情を浮かべた。
トーマスは、揺り起こせば今にもその瞼を開くような…そんなやすらかな死に顔だったのだから。







「先生、爺さんはなんで死んだんだ?
爺さんにはどこか悪い所でもあったのか?」

「トーマスさんは特にどこが悪いということはありませんでしたが、何分ご高齢でしたからね。
おそらく、老衰により心臓か脳が麻痺したのでしょう。」

「でも、あの前日は元気だったんだぜ?
そりゃあ、体調は崩したが次の日には良くなった…なのに、なぜ…」

「最近の疲れが引き金になったということは十分考えられますが、それはきっかけにすぎません。
トーマスさんは寿命を全うされたのですよ。」

クロードの話はいつも淡々としている。
人は生まれて来た以上、いつかは死ぬ。
金持ちであろうと貧乏人であろうと、美しかろうと醜かろうと、どんな人間であれ死なないということはない。
医師であるクロードはおそらくその単純な法則を誰よりも事実として認識しているのだ。
若くして呆気なく死んでしまう者もいる…病に冒され、長い間、苦しみながら死んでいく者もいる…
そんな中、苦しむこともなく寿命を全うしたトーマスは、彼の目には幸せな人間に映るのかもしれない。
幸せだろうがなんだろうが、自分の人生に関わった人間が亡くなるというのは悲しく辛いものだ。
だが、クロードは、そういう感情よりも理性の方が遥かに強い。
そういった性分は、彼が長年続けて来た「医師」という職業によって培われたものなのかもしれない。

トーマスの死因を調べるには、解剖をしないといけないということだった。
私達の中には、そこまでして彼の死因を知りたいと思う者はいなかった。
彼の身体を切り開き、その原因を突き止めた所で、彼はもう生き返らないのだから。
トーマスには身内はいないということだったが、ここには彼の死を悼む者達がたくさんいる。
だから、彼も旅立つ時に寂しい想いをすることはないだろう。


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