「爺さん!しっかりしろ!
爺さん!!」

しかし、トーマス老人はリュックの呼びかけに何も答えず、その身体はぴくりとも動かなかった…







私達は、トーマスが部屋に戻った後もなお飲み続け、そのまま二人共台所で眠り込んでしまった。
はっきりとは覚えていないが、おそらく明け方近くまで飲んでいたと思う。
目覚めたのは昼近くになってからだった。
朝はいつも誰よりも早く起きている筈のトーマスが私達を起こさなかった事にも、それほど大きな意味を感じてはいなかった。
きっと、私達のことを気遣ってそのままにしておいてくれたのだろうと、そんな風に考えていた。
しかし、朝には発つ予定だったものが私達のせいで遅れてしまったのだ。
出来るだけ早くに出発しなくてはと考えていた頃、リュックがトーマスの部屋に行き、そこで彼の異変に気が付いたのだ。
リュックの叫び声を聞いて私は部屋に駆け付けた。



「リュック…よせ……」

私はリュックの腕を取り、首を振った。



「そんな…そんな筈ないだろ!
だって、昨夜はあんなに元気で……」

私は、念のため、トーマスの脈を取ったがそこに動きはなく、鼻先にかざした手にも呼吸の兆候は見られなかった。



「……本当に残念だ……
死因は私にはわからないが…ここに来るのはまだ無理だったのかもしれないな…」

「爺さん…なんで…なんで、こんなことに……」

リュックは、トーマスの肩を抱き、静かに涙を流していた。



トーマスは、椅子に座り、机の上に突っ伏した態勢で事切れていた。
机の上には、木で作られた小さな宝箱があり、便箋が広げられ、ペンが転がっていた。
宝箱はちょうど小物入れ程度の大きさで、蓋が開けられた状態にあった。
おそらく、彼は何事かを書き、そしてこの宝箱に何かを入れるつもりだったのではないだろうか…
それが誰あての手紙で、何を入れるつもりだったのかは、今となってはもう誰にもわからない。



「リュック…」

私は彼にハンカチを差し出した。



「トーマスさんを、早く皆の所へ連れて行ってあげよう。」

リュックは涙を拭いながら、黙ってゆっくりと頷いた。


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