リュックとトーマスの作った夕食は簡単なものではあったが、久しぶりに飲んだ酒のせいなのか、それともあの赤い花のおかげなのか、私達はおかしな程に陽気で楽しい時間を過ごした。



「爺さん、それで探しものはみつかったのか?」

鼻の頭を赤らめたトーマスは、嬉しそうに微笑んだ。
その顔を見れば、何も言われなくてもみつかったことがわかる。



「そうか、それは良かったな。
ところで、一体、何を探してたんだ?」

「それはまだ秘密じゃ。
もうしばらくしたらわかるさ。」

そう言って、トーマスは悪戯っぽい笑みを浮かべる。



「なんだよ。
そんな事言わないで、今、教えてくれよ〜」

リュックは、酔っているせいかしつこく詰め寄っていたが、トーマスは笑うばかりで口を割ることはなかった。



「それはそうと…ピーターは、最近、ずいぶんと身体がしっかりして来ましたね。」

トーマスに助け舟を出すつもりで、私はピーターの話題を投げかけた。



「おかげさんで、あの子はどんどんようなっとる。
身体も心もな…」

トーマスは何かを考えるように一点をみつめ、グラスに残った酒をぐいとあおった。



「あの子にはわしがおらんとどうにもならんと思っていたが…そうではなかった。
いや、むしろ逆じゃった。
あいつはここから離れたから、あんなに良くなったんじゃ。
それはわしも同じこと…誰もが忘れ果てた大昔のことにこだわって、こんな場所にしがみついて…
……わしもつくづく馬鹿な男じゃな…」

トーマスは、俯き憂い顔で空のグラスをじっとみつめた。



「そんなことあるもんか。
あんたは、縁も縁もないピーターを一生懸命世話した。
この土地に残ってあんなに綺麗な花壇を作ったのも、あんたの優しい気持ちからじゃないか。
あの花壇を見て、大昔に死んでいった人達もきっと…」

「わしが手入れをしなくとも、花は育つ…」

「え……?」

トーマスはリュックの言葉を遮り小さな声で呟くと、顔を上げてにっこりと微笑んだ。



「……久しぶりに飲んだから眠くなって来た。
わしは一足先に休ませてもらうよ。」

「そうか、じゃ、おやすみ、爺さん。」


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