035 : 空の宝箱1


クロードの診立てによると、トーマスは少し疲れが出たのだろうということだった。
彼の診立て通り、トーマスは次の朝には何もなかったかのように回復した。
そして、家に取りに行きたいものがあると言い出したのだ。
その日は、トーマスの家の方へ行く乗合馬車がすでに出発した後だとわかり、次の日の馬車に乗る事になった。
本人は、一人で行くと言い張ったが、帰りはよほどの幸運がない限り馬車には乗られない。
まだ体調が完全ではないトーマス老人を一人で行かせるのは心配だということから、私とリュックも同行することになったのだ。
トーマスは、家の中に入ると休む事もせず、すぐに物置に入り込み、何かを懸命に探し始めた。



「爺さん、本当に大丈夫なのか?
少し休んでからにしたらどうなんだ?
何を探してるのか教えてくれたら俺達も一緒に探すぜ。」

「あんたも相当な心配性じゃな。
わしは、ほれ、この通り、元気じゃよ。
退屈じゃろうが、あんたらは、向こうで待ってておくれ。」

そう言って腰をかがめたトーマスは、棚の奥から埃をかぶった酒瓶を取り出した。



「おぉ、ええもんがあったぞ!
これでも飲んで待ってておくれ。」

トーマスは、袖で埃を払い除け、見覚えがなかったのか、小声で何事かを呟きながら酒瓶を見て首を捻る。
彼はどうやら探し物のことは私達には話したくないようだった。
私達はその気持ちを汲み、台所で年代ものの酒を飲むことにした。



「……うん!大丈夫だ!
いつの酒かわからないが、まろやかに熟成してやがるぜ。」

「本当だ。
意外と良い味してるな。」

孤児院にいる間は、私もリュックもほとんど酒を飲んでいなかったせいか、私達は他愛ない話をしながら良い気分で酒を酌み交わした。
酒瓶はすぐに残り少なくなり、私達は少し酔いがまわって来たのか、ふとしたことでも笑いがこみあげるようになっていた。
ちょうどその頃、晴れ晴れとした顔をしたトーマス老人が酒瓶を抱えて台所に現れた。



「酒がまだこんなにあったぞ。
今夜は久しぶりにわしも少しいただこうかのう。
その前に夕食の準備をせんといかんのう。」

「もうそんな時間か…夕食なら俺が作るよ。」

「じゃあ、一緒に作るか。」

トーマスはそう言って、嬉しそうにリュックに微笑みかけた。


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