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結局、その場では決まらず、ブランドンや他の皆の意見を聞いてみようということで落ちついた。
水車の動作は完璧なものだった。
緩やかな水路の流れをうまくまとめて水車を回す。
水車の動きに連動して腕木が上下し、その動きに合わせて今度は歯車が回って石臼の小麦を粉にひいていく。
トーマスの設計とリュックの組みたて…そのどちらもが完璧だからこそ、これほどなめらかに動くのだ。
水車の回る水の音、腕木の刻むのどかで規則正しいリズム、石臼の回る音…
それらが郷愁を覚え、どこかのひなびた田舎町の風景がぼんやりと脳裏に浮かんだ。
今までに通り過ぎたことのある町なのか、ただの私の想像の産物なのかはわからなかったが、そんなことはどうでも良い事。
心地良い水車小屋の音は、耳を傾けているといつの間にか眠気を感じる程だった。
「……マルタン!どうかしたのか!?」
束の間のまどろみは、リュックの大声によって中断された。
「あ…何か言ったか?」
「……ったく。
何、ぼーっとしてるんだよ。
後は色を塗れば完成だなって話をしてたんだよ。」
「すまない、あまりにこの音が心地良くてな…」
「まぁ…確かに良い音だよな。
なぁ、爺さん…爺さん!どうした?」
後ろを振り向いたリュックが、その場にうずくまっていたトーマスの元に駆け寄った。
「大丈夫じゃ。
ちょっと眩暈がしただけなんじゃ…」
トーマスはそう言って笑みを浮かべたが、その顔色は土のような色だった。
「無理すんなよ。
今日も朝からバタバタしてたからな。
後のことは俺達がやるから、あんたは休んでな。」
リュックは背中におぶさるように言ったが、トーマス老人は遠慮してなかなかすぐには従わなかった。
しかし、自分の足では歩いて戻れないと悟ったのか、ようやくリュックの言葉に従った。
「すまんのう…迷惑ばかりかけて…」
「何言ってんだ、こんなことが迷惑のうちに入るかよ。
……そんなことより、爺さん、軽いな。
ちゃんと食べてんのか?」
「あぁ、ここに来てからはちゃんと食べさせてもらっとるよ。
最近、少し無理しすぎたのかもしれんのう…」
「とにかく、今日は早めに休むんだぜ。
身体壊しちゃ元も子もないんだからな。」
リュックの言葉に、トーマスは黙って何度も頷いた。
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