「シスター・キャロル!
あなたには大変感謝しています。
あなたのおかげでわしもピーターも元気になれた。
ですが、あれは酷いじゃないですか!
あなたはピーターの頭かおかしくなっていることを良いことに、あの子を働かせようというのですか。
人手が足りないのなら、私があの子の代わりに働きます。
だから、どうかあんなことをするのはやめて下さい。
あの子は心をなくした可哀想な子なんじゃ…
それを良いように使うのは、どうかやめて下され。」

トーマスは、真剣な面持ちでシスター・キャロルに懇願した。



「……確かに、今のあの子は心をなくした人形のようなもの…
トーマスさん…それで良いと思われますか?
あの子がずっとそのままで構わないと思われますか?」

「それは……
じゃが、あの子はずっと何年もあんな風じゃ…
最初の頃よりも状態は悪くなっています。
これから先もきっと…」

「いけませんわ…
トーマスさん、私は彼に心を与えたいのです。」

「心を…?」

シスター・キャロルは黙って頷いた。



「この方法が成功するかどうかはまだわかりません。
ですが、彼が自分を罪人と思いこんでいるのなら、今はそれを頭から否定するのではなく、彼の思いを肯定しながら、何か彼に出来る事をさせたいと考えたのです。
自分が働く事によって、それを償いだと感じればもしかしたら彼の心の負担も軽くなってくるかもしれません。
そして、なによりも身体を動かす事、他の人と触れ合うことが彼に人間らしさを取り戻してくれるのではないかと考えたのです。」

シスター・キャロルは、職員の隣で黙々と草をむしるピーターに視線を移した。



「……そうだったのですか…
すみませんでした。
あなたのそんなお心遣いもわからずに、わしは…」

「トーマスさん、私はとても諦めの悪い人間なんです。
だめだと思われることも、すぐには諦めきれないのです。
彼もあのまま牢屋に留まっていれば、もしかしたらその方が楽なのかもしれません。
何も考えることもなく、何もしなくてすむあの暗闇は静かで居心地が良いものなのかもしれません。
ですが、彼はまだ若い。
彼にはまだまだ無限の可能性があるのです。
暗闇にひきこもっているなんてもったいないではありませんか。
もしも、なくしてしまった心が取り戻せないのなら、新たな心を与えてやりたいのです。」

トーマスは皺がれた瞳に溜まった涙を指で拭いながら、何度も何度も頷いた。



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