「あんたのせいじゃないさ。
どうせ、あいつのことだ。
肝心な事は教えなかっただろうよ。」

「……そうかもしれないな。」

「それで、先生にそのことは言ったのか?
あ…言えるわけないよな。」

「あいつのことは言えないが、それとなく過去生のことを信じてるか聞いてみたんだ。
だが、やはりそんなものはないと言われたよ。」

「そうだろうな……」







それからしばらくの間、私は孤児院で手伝いをしながら過した。
ピーターは相変わらず何も話さずうつろな瞳をしていたが、手厚い看護の賜物なのか、その肌や髪には艶が現れ、頬にも丸みが付き、少しずつ健康に見えるようになって来ており、トーマス老人もそのことを大変喜んでいた。

ある日の夕食の際、シスター・キャロルが思わぬことを言い出した。



「先生、私にしばらくピーターのことを任せていただけないでしょうか?」

「任せる…とは、どういうことですか?
彼のあの状況を変える方法を思いつかれたとでも…?」

シスター・キャロルは黙って頷いた。



「それはどんな方法なのです?」

「彼に簡単な仕事をさせようと思います。」

「仕事を…?
それは身体にも精神面においても良いことですが、彼はあの通り、あの部屋を出ようとはしない。
あなたにはどこか懐いているようにも感じられますが、素直に言うことを聞くとは思えないのですが…」

クロードの言う通り、ピーターはここでもまた檻の中に入っていた。
彼が今いるのは、檻とは名ばかりの、いいかげんな柵を立て掛けただけの部屋だが、その柵が設えていなかった数日間、彼は落ちつきをなくしていた。
老人の提案によって作られた柵のおかげで、ピーターはやっと落ちつきを取り戻したのだ。
最近ではようやくシスターキャロルや他の職員を怖がることこそなくなったものの、彼はその部屋から出ようとはしない。
そんな彼を部屋から連れ出すことが出来るとは、私にも思えなかった。
少なくとも、もうしばらく時間をかけなくてはならないのではないだろうか?
だが、シスター・キャロルはそんな私の心配をよそに毅然とした態度で答えた。



「私に案があります。任せて下さい。」





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