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「一体、誰がそんなひどい事を!」
すぐにクロワも駆け付け、私は皆の前で今朝の出来事を話して聞かせた。
「何か、不審な物音のようなものはありませんでしたか?」
「え…不審な物音…ですか?
……そういえば……明け方、酔っ払いの声のようなものが聞こえたように思います。」
それは、クロードの質問に対し、咄嗟に飛び出た嘘だった。
あいつのことを言っても誰も信じる筈はない。
かといって、わざわざそんなことをする者も滅多にいない。
酔っ払いのせいにしてしまったのは、我ながらけっこううまい嘘だったかもしれない。
実際に、皆、私のその嘘を聞いて納得したようだった。
「きっと、本人はもう何も覚えてないんでしょうね。」
「いくら酔っ払ってたとはいえ、酷いもんだな。
爺さんがあんなに一生懸命育てたものを…畜生!」
「それで、ここへは花の種か苗を買いに来たんです。
それを買って、また一から作り直そうと…」
「そうでしたか…でも、マルタンさん、あなたはそういうことには慣れてらっしゃるの?」
「…え?」
シスター・キャロルに言われたことが何のことだかよくわからなかった。
「簡単なようでも意外と園芸は難しいものなんですよ。
どういう土にどういう花が合うのか、日光を好むものもいれば日陰を好むものもありますし、それを知ってないと、うまく育たない事も多いのです。」
「…そうなのですか?」
植えて適当に水をまきさえすれば、それで花が咲くものだと安易に考えていた私はそれを聞いて落胆した。
「そちらにはまたいずれ私達の誰かが向かう事にしましょう。」
またも役立たずの結果になってしまったことが、私の心を沈ませた。
「それで…あの、ピーターとご老人の具合はいかがですか?」
クロードの話によると、ピーターは精神もだが身体面であれこれ問題があり、まずはそっちを少し改善してからということだった。
老人も酷く栄養状態が悪いらしい。
「先生は過去生というものを信じてらっしゃいますか?」
私の唐突な質問にクロードは目を丸くした。
「そういうものはありえません。
過去の自分を覚えているという者もいますが、それは脳が作り出した妄想に過ぎません。」
思った通りだった。
医師であるクロードはそのようなことはまるで信じていないようだった。
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