３
『……強い想いというものは、時を超えいつまでも魂の記憶として残る…
魂に刻まれた深い傷のようなものだな。』
私のことを無視して、あいつは勝手に話を続けた。
『……奴の長年封じこめていたそれが、ある偶然によって解放された…
こういうのが神の悪戯というものか…
神という奴は、時々そういう残酷な事をやって面白がってやがるんだ。』
「ピーターのあの症状は過去生に関係があるというのか？
あの子に一体どんなことがあったというんだ？
知ってるなら教えてくれ！」
私がそう言った瞬間、あいつはいつもの馬鹿笑いを始めた。
癇に障るほどの大きな声で、あいつは腹を抱えて笑い続ける。
「なにがそんなにおかしい？」
あいつは笑い過ぎて切れた息を整え、涙を拭いながら、こう言った。
『おまえのお人良しも相当なもんだと思ってな…
そんなおまえだから、あの女と出会ったのかもしれんな。
類は友を呼ぶという奴だ。
それにリュックいう男…おまえ達はお人良しの大馬鹿者だ。
あの医者だけはまともかと思ってたら、最近はおまえ達の馬鹿が移って来たみたいだな。
嘆かわしいことだ…』
「馬鹿にしたければ勝手にすれば良い。
だが…もしも、ピーターについて何かを知っているのなら、教えてくれないか？」
あいつはじっと黙り、何かを考えるように私の顔をみつめていた。
私の気持ちがやっとあいつにも通じたのかと思った時、あいつは口を開いた。
『いやだ。
知りたければ自分で考えることだな。
それに、知った所でなにがどうなるっていうんだ？
おまえにあのガキを治せるとでもいうのか？』
「クロードは医師だ。
症状の元になっていることを話せばきっと…」
『医者が過去生のことなど信じるものか。
そんなことより、マルタン、酒でも飲まないか？』
思いがけないあいつの言葉に私は一瞬戸惑った。
「残念だが、ここにはそんなものはなさそうだ。
それに私もおまえと一緒に酒を酌み交わす気にはなれない。」
『……そうか…
それは残念だな。
私のような者と酒は飲めないというのか…
……まぁ、せいぜい、人助けに励むんだな。
いつかきっとそれを後悔する日が来るだろう。
その日が来るのを楽しみにしている…』
そう言い残し、あいつは空気に溶け込むように姿を消した。
あいつを怒らせたのは間違いだったのかもしれない。
だが、それまでの言葉のやりとりのうちに気分を害していたせいで、ついあのようなことを言ってしまったのだ。
酒はここにはなさそうだという所で言葉を止めれば良かったと私は後悔した。
- 141 -
しおりを挟む
コメントする（0）
[＊前] | [次＃]
お題小説トップ 章トップ
お題小説トップ 
しおりを挟む
コメントする（0）