11
ナタリーは、ピーターの涙をそっと拭った。
「ピーター、可哀想に…
あんた、混乱してわけがわからなくなってるんだね。」
「そうじゃない、僕は本当に…!」
「良いか、小僧。
ゆっくり落ちついて考えるんだ。
そしたら、おまえの話がおかしいことがすぐわかる。
おまえは、ローブ様がおまえのことを気遣って、破魔矢を元に戻そうとしたと言ったな。
しかし、なぜ、ローブ様はおまえが破魔矢を持って来たとわかるんだ?
おまえは、自分の名を名乗ったのか?」
「…それは…
その前にローブに会った時に、僕がきっとなんとかするって言ったから…
ローブは頭の良い子だから、きっとそれで僕がやったってことを悟ったんだ。」
「ローブ様に会った…ねぇ…」
男は、ナタリーの顔をみつめ、どこかうんざりしたように首を振った。
「本当なんだ。
僕はローブを連れて逃げようとしたんだけど、ローブがそれは出来ないと言ったからまた屋敷に戻った。
そして、あの破魔矢を引き抜いたらローブはもう暁の女王でいられなくなると思って、それで…」
「……そうか、そうか、よくわかった。
そうだ、あの矢はおまえが引き抜いたんだな。
よくわかった。」
男は、そう言いながらピーターの肩をぽんぽんと叩く。
「嘘じゃないんだ…信じてくれよ…
あれは僕がやったことで、ローブは少しも悪くないんだ…!
そのことを皆に言わなくちゃ…!!」
「そうだな、そのうち俺がアレクシス様に伝えておくからおまえは何も心配するな。」
「そんな目で見ないでくれ。
僕は…本当のことを言ってるんだ。
今回のことは僕が全部悪いんだ…!」
ナタリーはそう叫ぶピーターの様子を見ながら、そっと目頭を押さえた。
「じゃあ、そろそろ行くとするか。
少し急がないと、隣町に着くのが夜中になっちまう。」
ランプを持ったナタリーが先頭を行き、男はピーターを縛った縄の端っこを握って彼の後を歩く。
「足元に気を付けろよ。
この先は吊り橋になってるからな。」
男が振り向いてナタリーに声をかけた瞬間、ピーターが大きな声を上げて走り出した。
「わぁぁぁぁーーーーー!」
「ま、待て!待つんだ!!」
ピーターはナタリーを突き飛ばし、吊り橋を目掛けて一直線に走って行く。
「ば、ばか!!
何をする気だ!」
男の目の前で、ピーターの身体が舞い、暗い闇の中に消えた…
- 135 -
しおりを挟む
コメントする(0)
[*前] | [次#]
お題小説トップ
章トップ