「あの者がどうかしたのか?」

「はい、ローブ様に会わせろと言って来たんでローブ様は死んだと言いますと、あいつが狂ったように俺に飛びかかって来ましてね。
しかも、おかしなことを言いやがるんです。」

「おかしなこと?」

「はい、なんでも破魔矢を引き抜いたのは自分で、その矢を門番に渡したとか言いやがるんです。」

「なんだと?あの者が破魔矢を引き抜いただと…?」

アレクシスの片方の眉が吊り上がる。



「ピーター!!」



騒ぎを聞きつけ集まった人々の中から、捕えられたピーターの傍に駆け寄る女がいた。




「誰だ、おまえは…」

「は、はいっ!
私はナタリーといいまして、この子の家の近所に住む者です。
この子が何かしでかしたのでしょうか?」

「おかしなことを口走り、屋敷に押し入ろうとしたのだ。」

「も、申しわけございません!
この子はピーターと言いまして、ローブ様の幼馴染なのです。
今朝方まで遠くの町に住む祖父の所に行っておりまして、つい先程ローブ様の訃報を知り、えらく混乱しておりまして…」

ナタリーは地面に頭をこすりつけるようにして、ピーターの非礼を詫びた。



「……そうだったのか…
事情はわかった。
ただ、このようなことが度々あっては困る。
おまえが、この者を祖父の所へ連れ、二度とここへは来させぬよう約束するのなら、このまま解放するが…」

「は、はいっ!わかりました!
絶対にここへは来させません。
寛大なるお心に感謝致します。」

「誰か、この者に付き添って行ってやれ。」

なお暴れようとするピーターは、屈強な男にひきずられるようにしながら、屋敷を後にした。







「アレクシス様、あんなことで宜しかったのですか?
万一、あの者が町中であのことをふれまわったら…」

「あの者は、悲しみのあまり頭がおかしくなったのだ。
それで良いではないか。
それとも、おまえが自らあの者に手を下すとでも言うのか?
……あの晩のことを知る者は、皆、金を持たせ暇を取らせた。
破魔矢はローブ様が悪魔に心を操られて引き抜かれたのだ。
神聖な破魔矢はそこいらのなんでもない男に引き抜けるようなものではなく、ましてや破魔矢を引き抜いた者が何の裁きも受けないというようなことはありえないのだ。
……そうであろう、エドガー?」

「は、はいっ!
アレクシス様のおっしゃる通りでございます!」

エドガーは恭しく頭を下げた。



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