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「……おばさん…
今、なんとおっしゃったんですか?」
予期せぬナタリーの言葉に、ピーターは激しく動揺する。
ピーターの頭の中をナタリーの言葉が何度も何度も通り過ぎ、その言葉は手を伸ばしても掴めない。
「ピーター、しっかりおし!
ローブ様は、死んだんだよ!
悪魔に魅入られて、悪魔の館にある破魔矢を引き抜きに行って、神様の罰を受けて階段から転げ落ちて死んだんだよ!」
ナタリーの両腕が、無表情のピーターの心を起こすように揺さぶった。
「……な……な……なんだって…!?
ローブが…死んだ?
破魔矢を引き抜きに行って…死んだ?
……馬鹿な…!
おばさん、何を言ってるんです?
ローブは…」
そう言いながら、焦点のあわない瞳をしてピーターは首を振る…
「ピーター…可哀想に…
でも、現実をみつめるんだ…
ローブ様はきっとお優しかったから、悪魔に騙されちまったんだね。
気の毒にね…まだあんな子供なのに…」
ナタリーはそう言いながら、前掛けの裾でそっと涙を拭った。
「そ…そんな…
そんな馬鹿なことがあるはずないっっ!!」
「あ、ピーター…!!
どこに行くんだい、お待ち!」
ピーターは、ナタリーを残し、全速力で駆け出した。
目指すのは、もちろんローブの住む屋敷だ。
(……嘘だ…!
これは、なにかの間違いだ!
だって、あの矢を引き抜いたのはこの僕なんだから!
そのことは、屋敷の門番も知ってる筈だ。
なのに、なぜ、ローブのせいになってるんだ?
しかも、ローブが死んだなんて…
そんなこと、あるわけない!
ローブはあんなに元気で…まだ十二歳になったばかりで…)
ピーターの視界がぼやけて膨らみゆらゆらと揺れる…
叫び出したい衝動を必死に押さえながら、ピーターはまっすぐに走り続けた。
ローブの住む屋敷を目指して…
そこに着けば、きっとローブはいつものように窓から顔を出す筈…
自分が来たことに驚きながら、でもどこか嬉しそうな顔をして彼女は微笑む筈…
自分にそう言い聞かせながら、ピーターは明るくなった町の中を走り続けた。
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