(そろそろ何か動きがあるはずだ…)

あの日から三日目の早朝、ピーターはこっそりと家に戻った。

この二日間、ピーターは近くの山の中に身を潜めていた。
怖れていた追っ手がかからなかった所を見ると、あれをやったのが自分だということがバレていないのではないかと思え、ピーターはどこかほっとした気分を感じていた。



「おや、ピーターじゃないか。
ここんとこ見なかったけど、どこに行ってたんだい?」

背後からかけられた声に、ピーターははっとして振り返る。



「あ…あぁ、おばさん…
あの…ちょ…ちょっと、お祖父さんの所に…」

声をかけて来たのは、二軒先の家の住人だった。
世話好きな中年のナタリーという女性だ。



「そうだったのかい。
お祖父さんの所で何かあったのかい?」

「え…?あ…あぁ、少し具合が悪いようだったので、心配になって…」

「それは大変だったね。
それで、お祖父さんは大丈夫だったのかい?」

「はい…おかげさまでたいしたことはなくて…」

つまらないことをあれこれ話すナタリーにうんざりしながらも、ピーターは適当に返事をしていた。
おしゃべり好きな所をのぞけばナタリーは気の良い女性で、ピーターにも何かと良くしてくれていたことを考えると、そう無碍な態度も取れなかったのだ。
しかし、なかなか終わらないおしゃべりに、こんなことなら一旦家に戻ってしばらく仮眠しようと考えたことを、ピーターは後悔し始めていた。



「そうだ、ピーター!
暁の女王のことはもう知ってるかい?!」

不意に飛び出したローブの話題に、ピーターの目の色が変わった。



「ロー…いや、暁の女王に何かあったんですか?」

「やっぱり知らなかったんだね。
……そういや、あんた、ローブ様とは幼馴染だとか言ってたね。
……良いかい?落ちついて聞くんだよ。」

ナタリーは、ピーターの両腕を力を込めて掴んだ。
ピーターは、ナタリーの言おうとしていることに察しが付いていた。
今頃、町は破魔矢が引き抜かれたことで大騒ぎになっていることだろう。
そんなことよりピーターが気になっていたのは、ローブへの処分のことだった。
今、ナタリーが言おうとしているのはそのことだとピーターは感じていた。



「ローブ様は…死んだよ…」



ナタリーの声が、ピーターの耳をすり抜けた。
それは、言葉ではなくまるで意味を成さない何かの音のように、ピーターの両方の耳を通り過ぎて行った…


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