(そうだわ…!)

テーブルの上に突っ伏していたローブが突然顔を上げ、涙を拭う。



(まだこのことはそれほど多くの人には知られていないはず…!
多分、確かめに行った者もまだいない…
今のうちに私が矢を元通りに突き立てておけば、なんとか言いくるめることが出来るかもしれないわ!)

ローブは立ちあがり、服を着替えると外套を羽織った。
周りに気を遣いながらこっそりと部屋を抜け出し、ローブはアレクシスの部屋に向かった。



(あった…!!)

アレクシスの部屋のテーブルの上に破魔矢をみつけたローブは、それを外套の下に隠すとそのまま誰にも見つからないように裏口に回り、そこから土砂降りの雨の中に飛び出した。



(ピーター…心配しなくて良いのよ…!
私がうまくやるから!)

ローブは夜の闇の中を走り続けた。
雨の冷たさも闇の怖さも忘れ、ただ前だけをみつめて…







(やっと着いた…)

弾む息を整えながら、ローブは大きく肩を動かした。
闇の中に佇む悪魔の館…そこに着いた途端、ローブは恐ろしさで足がすくむ。
矢を立てに初めてこの中に立ち入った時の恐怖が、ローブの胸の中を覆い尽くしていた。
雨に煙る悪魔の館を見上げながら、ずぶ濡れのローブは唇を噛んだ…



(頑張るのよ、ローブ…
ここまで来て引き返すことなんて出来ないわ。
今、この矢を突き立てさえすれば、すべてが丸く納まる…
誰も傷付かずにすむ…
……簡単な事よ。
あの時と同じように矢を立てて、そして明け方までに屋敷に帰る…
そして何も知らないふりをしてアレクシスさんに尋ねるの。
「矢が引き抜かれたことを確かめたんですか?」って。
皆が、ここへ来たら、矢は何事もなかったように刺さっていて、昨夜のことは誰かのいたずらだったってことになる…
そしたら、誰も傷付かない…
頑張るのよ…頑張るのよ!ローブ!
皆のために…!!)

ローブは、外套の袖でごしごしと顔を拭うと、しっかりとした足取りで悪魔の館に足を踏み入れた。


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