(きっと、ここだ…!)

ただ、心配なことに笛の音はピーターの行く先から聞こえて来るように思えた。
もしも、その場所に誰かがいたら何と言ってその者をそこから引き離そうか…?
そんなことを考えているうちに、ピーターは長い階段を下りきっていた。



「あった!!」

壁にみつけた破魔矢に、ピーターは感激の余り思わず声を上げていた。
地下にピーターの声の余韻が響く…



「あ……」

ピーターは不意にあの笛の音が消えていることに気が付いた。
気が付いた途端、ピーターは自分でも驚くほどの激しい心細さに襲われた。
入ってはいけない場所に入りこんでしまったこと、今から自分がしようとしていること、恐ろしい場所に今、自分はたった一人でいること…
今までどこかに仕舞い込んでいたそんなことへの恐怖心が、笛の音のやんだことで一気に吹き出してしまったようだった。
まるで、暗闇に怯える子供のように逃げ出したい気持ちが抑え切れないほど大きくなってくる。
ピーターは片手で無造作に壁の破魔矢を掴み、そのまま引き抜くと、破魔矢は何の抵抗もなくすんなりと壁を離れた。
その時、低い笑い声が聞こえたような気がしてピーターはあたりを照らし出したが、そこには誰もいなかった。
ピーターの身体が小刻みに震え出す…
いいしれぬ恐怖にもつれそうになる足を必死に動かして、ピーターは階段を上がり始めた。
階段の中ほどに来ると、ピーターは大きな声をあげ泣き出していた。
押さえようとしても押さえきれない程の恐怖感、そして、重大なことをやり遂げたことへの安堵感が重なって、それらがわけのわからない絶叫に変わった。
ランプの灯かりがゆらゆらと大きく揺れ、ピーターの狂気染みた泣き声がこだまする中、彼は全速力で雨の中に駆け出した…


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