何度言い聞かせても、いざ実行に移そうとすると、ピーターの全身はガタガタと震えた。

(あんなものは遥か大昔に誰かが作り出したただの伝説だ…
破魔矢が引き抜かれた所で、何も起こりはしない…
ローブのため…ローブの明るい未来のために僕がやらなきゃいけないんだ!)

ピーターは、まるで呪文のように心の中でその考えを何度も何度もめぐらせる…

その時、少しずつ強さを増す雨音に混じって、なにか不思議な音が聞こえるのをピーターは感じた。



(……あの音は?)

耳を澄ませじっと聞き入ると、それはピーターには笛の音のように思えた。
とても物悲しく、それでいて力強さを感じる不思議な音だった。
ピーターはその笛の音に誘われるかのように、音源に向かって歩き出していた。

数歩歩いて、ピーターは不意に立ち止まる…
それは、その音源が悪魔の屋敷の中から聞こえてくるように感じられたからだ。
誰も立ち入るはずのない廃墟から笛の音が聞こえて来ると思うと、ピーターの足はすくみ、再び身体に震えが走った。
その間も途切れることのない笛の音は、ピーターの恐怖心とは裏腹に、耳を傾ければ傾けるほどなんともいえない魅惑的な気分を感じさせた。




(そうか…!
きっと、この廃墟のことを知らないどこかの旅人か誰かが雨宿りに入ってるんだ…)

ピーターは都合の良い想像を思い付き、一人で満足げに頷いた。
悪魔の館に誰か先客がいるということが、妙にピーターを安心させた。



(でも、まさか、破魔矢の刺さってる場所にはいないだろうな…)

ピーターはいつの間にか、館の中に足を踏み入れていた。
先ほどまであれほど躊躇していたことが嘘のように…
奥へ進む毎に館の中は暗くなり、ピーターは用意して来たランプに灯かりを灯す。
無論、ピーターがこの館へ入ったのは初めてのことだったが、不思議と破魔矢の刺さっている場所には見当が付いた。
長い通路を突っ切り、地下の奥深くへ続く階段をみつけたピーターは、破魔矢がその先にあることをなぜかしら確信していた。


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