「ローブ、そこから離れて!」

あたりに気を配りながら、ピーターは声を潜めてそう言った。
ローブが言われるままに窓の傍から離れると、窓の下から何やら丸い紙くずのようなものが飛び込んで来た。



「ピーター、これは?」

「じゃあ、後で…」

「あ……」

ローブが声をかける間もなく、ピーターは茂みの中に戻って離れて行ってしまった。



屋敷の門の前には、始終、門番が控えてはいたが、それ以外では特に警備が厳しく張り巡らされているということはなかった。
なぜならば、ローブは暁の女王。
そんな彼女に危害を加えよう等と考える者はまずおらず、考えられるのは暁の女王自身が家に逃げ帰ろうとするか、家族が会いに来ようとするかくらいのこと。
それも長い歴史の中で、ほんの数回あっただけだという。
だからこそ、警備はそれほど厳重ではなかったが、それでも、万一、侵入者があれば咎めを受けないわけではない。



ピーターは、ローブの幼馴染だった。
幼馴染というよりは、兄のような存在だ。
ローブより5つ年上のピーターは、ローブの家から数軒離れた家に父親と二人で住んでおり、数ヶ月前にその父親が亡くなり、それからは一人で暮らしていた。
ローブが暁の女王と認められた時も、最後まで屋敷へ行く事を反対していたのがピーターだった。
ピーターは家族が離れて住むことは良くないと、必死になってローブの家族を説得しようとした。
しかし、たとえローブの家族が反対したとしても、決まってしまったものはもうどうしようもなかった。
ローブは、懸命に涙をこらえ家族の元を離れたのだ。



(ピーターは無事に出られたかしら…?)

ローブは、窓の外を眺めながら、ふと足元に転がる紙くずを拾い上げた。
くしゃくしゃになった紙の中には小石が入っていた。



(なんでこんな石ころを?
ピーターったら、どういうつもりなのかしら…)

石ころを外へ放り投げた時、ローブはその紙に文字が書いてあることに気が付いた。



(これは…!)

そこには、逃亡のための手順が書いてあった。
その決行は今夜11時…


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