026 : 光の地平1


それからというもの、流行病の蔓延は止まり、良い天候に恵まれて田畑はみるみるうちに回復した。
それは、偏に悪魔の屋敷に突き立てられた魔封じの矢と、暁の女王であるモイラのおかげ。
そのことを疑う者は、ただの一人もいなかった。
その後、このようなことが二度と起きぬよう、十年に一度、暁の女王によって新しい矢を突きたてることがこの国の慣わしとなった。







(どうして、私には矢を刺す事が出来たのかしら?
私は本当に、暁の女王なの?
ううん、そんなことないわ。
私はごく普通の女の子だもの…あんなのただの偶然に決まってるわ!
帰りたい…家に帰りたい…!
でも…もう帰れない…)

ローブは、床に突っ伏し、声を押し殺して泣いた…




暁の女王の任務は十年間。
仕事といっても、年に数度、民衆の前に出るだけ。
後は、馬鹿でかい屋敷の中で退屈な時間を過ごすだけ。
女王の家族には、過分な褒美が与えられる。
それこそ、一生遊んで暮らせる程の報酬だ。
それは、偉大な娘への代価。
十年経った後、女王は、修道院に入る。
修道院に入ってからは家族と会うことが出来ないわけではないが、俗世とは離れた生活を強いられるのだ。
つまり、暁の女王に選ばれた者は、与えられた人生を生きるしか道がない。
暁の女王に自由というものはない。
それが、選ばれし者の運命なのだ。



その時、窓に何かが当たる小さな物音がした。
ローブは、顔をあげ窓の方を見たが、何も変わったことはなかった。
しかし、そのすぐ後にまた同じような物音がして、ローブは窓を押し開けた。



「ローブ、僕だよ!」

開け放した窓の下から少年の声が聞こえるが、あたりに人影はない。



「誰…?」

「僕だよ、ピーターだよ!」

窓の下の茂みがもそもそと動き、そこから懐かしい顔が飛び出した。



「ピーター!」

ローブは、思いがけない出来事に大きな声が出そうになるのを感じ、両手で口許を押さえた。


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