024 : 伏魔伝1


「次の者は…ローブ=スチュワート!」

「は、はいっ!」

少女は緊張した面持ちで返事を返す。



「ローブ、頑張るんだよ!」

「わかってるわ、母さん、任せといて!」

少女は、母親と握手を交わすと慌てて前に歩み出た。



付き添いの男に伴なわれ、ローブは暗い石造りの通路を歩き始めた。
黴臭い空気の中に、二人の靴音と規則正しい水滴の音がどこからか聞こえる…
今にも恐ろしい魔物が物陰から飛び出して来そうな気配に、ローブは逃げ出したくなる衝動を必死に押さえていた。



「ここだ。」

長い階段を降りた後、側近は壁の前で唐突に立ち止まり、ローブに一本の矢を差し出した。



「手順はわかっているな。
ここに、この矢を突き立てるのだ。」

「は、はいっ!」

ローブはおずおずと壁の間近に進み出た…







町に御触れが出たのは、三ヶ月程前のことだった。
この所、このあたりには酷い災害が続いていた。
春になっても冬のような寒さが続いたかと思うと、その次には激しい集中豪雨が大地を叩き、その上、地震が起きて田畑は壊滅、井戸は干上がった。
さらに悪い事に流行り病が広がり、人々は次々に飢えと病で倒れて行った。
一向に良くなる兆しの見えないことに焦った領主は、遠い町から評判の祈祷師を呼び寄せた。



祈祷師は言った…

「北の方角で魔物達が復活している!」と…



皆は、その言葉に思い当たることがあった。
町の北にある廃屋…
崩れかかったその屋敷の周囲に、近寄る者はいない。
なぜならば、そこは悪魔の屋敷と噂される場所だったから…

なぜ、そんな噂が立ったのか、それを知る者はいない。
だが、町の者達は大昔から伝わるその言い伝えを固く信じ、誰も近付くことのないままいつしか気の遠くなる程の年月が過ぎていた。


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