021 : 死線1


「なんだね?」

老人に事情を話すと、あまり乗り気ではなさそうだったが、食料を少し渡すということでなんとか泊めてくれることになった。



「爺さん、ここらはやけに荒れ果てているみたいだが、昔なにかあったのか?」

「あぁ…ここでは、昔、戦があってな。
最初は川の水をめぐってちょっとした言い争いだったらしいのじゃが…いつのまにかその争いが大きくなってしまい…結局、大勢の人間が死に、このあたりにあった二つの村は燃え尽くされた。
どうやらこのあたりがちょうど二つの村の境あたりで、最も死者が多かった場所らしい。
亡くなった者達の怨念かなんだかわからんが、いまだこのあたりには緑さえ戻らん。
だからこそ、ここにまた町を作ろうと思う者もおらんのじゃ。」

「じゃあ、なんだって爺さんはここに住んでるんだ?」

「それは……
本当のことはもはやわからんが…争いの火種になったのがうちの先祖だったということを聞いたからじゃ。
せめて少しでも亡くなった者の供養になればと、わしはよその土地から土を運びここに花壇を作った。
その手入れをしにここに通ううちに、それならいっそここに住もうと思いついてな。
だが、ここは不便で困る。
最近はわしも足腰が悪くなって来てのう…
ちょうど食べるものも底を着いてた時だったんじゃ。
助かったよ。」

「そうか、そんなわけがあったのか。
こっちこそ助かったぜ。
泊めてもらえなかったら、野宿になる所だったよ。」

「たいていの者はこの先へは馬車で行くようじゃが、歩いて行くとは物好きじゃな。」

「こんなに遠いとわかっていたら、馬車で来るんだったよ。
遠いとは聞いてはいたが、ここまでとは思わなかったからな。」

老人は、最初の態度とは違い、けっこう話し好きのようだった。
もしかすると、長い間一人でいて人恋しかっただけなのかもしれないが…とにかくそのおかげで私達は余計な気を遣わずに済んだ。

しばらく話をした後、持って来ていた食料でクロワが簡単な食事を作り、老人が食器を用意した。



「あら、お爺さん、食器が一つ多いようですよ…」

私達が四人と老人…食器の数は五枚で良い筈だが、老人は食器を六枚取り出したのだ。



「いや、これでええんじゃ。」

クロワは、老人の言うままに料理を六つの食器に振り分けた。


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