018 : 羽根を失くした背中1
*
「おはようございます。」
振り返ると、そこにはシスターキャロルとクロワ、そしてステファンが立っていた。
「今からお花を植えるんだ。」
そう言って、ステファンが手の平の花の種を見せてくれた。
「そうか、何の花を植えるんだ?
百合の花はないのか?」
「あら、リュックさんは百合の花がお好きなの?」
「いや…今、ルーカスさんから昔はこの屋敷にたくさんの百合の花が植えられてたって話を聞いた所なんだ。」
「そうなんですか。
では、近いうちに百合の花も植えましょうね。」
「そうだね。そしたら、おじいちゃんも喜ぶね!」
「おじいちゃん…?」
シスターキャロルは、不思議そうな顔をステファンに向けた。
「あ、ほら、見て!
あの天使様、シスターキャロルにそっくり!」
首を垂直にもたげ、天井画を見あげて、ステファンがはしゃぐ。
「まぁ、天使様に似てるって言ってもらえるなんて光栄だわ。」
「あの天使様は、クロワさん。」
ステファンは、黒い髪の天使を指差した。
「そうね。
クロワさんは、とっても優しくて天使様みたいな人ですもんね。」
「やめて下さい!
私は…わたしはそんな人間じゃあありません!!」
クロワは突然声を荒げ、そのまま外へ飛び出して行ってしまった。
私はこれと似た光景を以前にも見た時の事を思い出していた。
(あれは……)
記憶の糸を手繰り寄せる…
そうだ、あれは、確かジャンやメラニーとの別れの時だった。
あの時も、ジャンの何気ない一言で、クロワは不自然な程、取り乱したのだ。
私にはクロワの感情の高ぶりの原因がわからなかったが、おそらく何かがあるのだろう…
「クロワさん、どうなさったのかしら?」
「大丈夫ですよ…なんでもありません。」
「クロワさん、怒ったの?」
「……怒ってなんかいないさ。
きっと、恥ずかしかったんだよ。
そう…自分にはあんな羽根がないから…」
「羽根?」
「いや、なんでもない。
さぁ、ステファン、早くお花を植えておいで!」
「うん!」
ステファンとキャロルは、外へ出て行った。
「マルタン、クロワさん、どうしたんだ?」
「私にもわからん。
まぁ、それほど気にする事はないさ。
さぁ、私達も仕事に行こう。」
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