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「へぇ、そいつは面白い話だな。」
次の朝、私は昨夜の出来事をリュックに話した。
「きっと、あの肖像画に似た年格好の老人だったんだろうな。」
「だけど、マルタン、それじゃあおかしいじゃないか。
ステファンは、外からじゃなく奥の部屋の方から来たんだろう?
一体、どこでその花束を受け取ったっていうんだ?」
「それは……」
「それに、もしも孤児院の祝いに花束をくれたんなら『おめでとう』だとは思わないか?
『ありがとう』ってのはおかしいじゃないか。」
「……それはそうだが、それじゃあ、君は肖像画の老人が絵から抜け出て来て、ステファンにあの花束を渡したっていうのか?」
私は玄関先に生けられた白い百合に視線を移した。
「う〜ん…でも、そういうことになるんじゃないか?!」
リュックのその言葉に、私は呆れてしまった。
そんな馬鹿げたことがあるはずがない。
最近のリュックはどんどんこの手の話にのめりこんでいるように思えた。
確かに、私の身の周りにも不思議な出来事はいくつもあった。
だから、そういうものを信じないというのではないのだが、いくらなんでも絵から抜け出してきた人物が花束を手渡すというのは信じ難い。
そもそも肖像画のあの人物は誰なのか?
「おはよう。」
ちょうどそこへルーカスが入ってきた。
彼は、あれからここの雑用係として働いている。
「おぉ、良い香りだな。」
「ちょうど良かった。
納戸にある肖像画のことなんだが…」
「どれのことだい?」
「一番奥にある白髪の…」
「あぁ、あれなら、この屋敷の元々の持ち主の筈だよ。」
私とリュックは顔を見合わせた。
納戸にあるからには、当然この屋敷に関わりのある者だと思っていたが、ここの元々の持ち主となるとステファンの先祖ということになる。
「そういえば…」
「どうかしたのか?」
「この百合で思い出したんだが、ここの屋敷には昔、白い百合がたくさん植えられて、そりゃあ良い香りがしてたって聞いたことがある。
わしが見た時にはもうそんなものはなかったがな。」
「そうか、そうか…」
リュックは満足気に腕組みをしながら何度も頷いている。
私は、この奇妙な符号をどう捉えれば良いのかわからず、何も言うことが出来なかった。
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