「その子の父親は遠い異国からの旅人でした。
私の知らない国のことを聞かせてもらってるうちに、私はその国に憧れ、そしてその人に憧れていきました。
私の家はいわゆる名家と呼ばれる家で、父はとても厳格な人でした。
まだ十七だった私がどこの馬の骨ともわからない異国の人間の子を孕んだと言うことで、父は激怒しました。
私は家から出してもらえなくなり、彼とも会えなくなってしまいました。
彼は私が妊娠したこともきっと知らなかったと思います。
やがて、臨月になって私は男の子を産みました。
私はその子と家を出て、二人で暮らしていこうと考えていたのですが…私が眠っている間にその子は死んでしまったそうです。
出産後、私はその子をこの手に一度だけ抱いたっきりでした。
乳を与えることもありませんでした。
とても小さくて…でも、力は強く、小さな手で私の指をぎゅっと掴んでくれた感触を今でも私はしっかりと覚えています。」

シスターキャロルは、ハンカチでそっと涙を拭った。



「そんなことが……」

「その後、私は家を出て修道院に向かいました。
両親には一度も連絡をしていません。
そのことを申し訳なく思ってはいるのですが…それでも、家に向かう勇気が出ないのです。」

「それはいけない!
あなたのご両親ももうご高齢なのではありませんか?
もしも…もしも、会うのがお辛いのなら、せめてお手紙だけでも出してあげて下さい!
僕には出したくても、出す相手がいないのです。
あなたには、そのお相手がいらっしゃるのですから…
どうか…どうか、安心させてあげて下さい!」

「ブランドンさん…ありがとう…
私、この話は誰にも話したことがなかったんですよ。
あなたは…なんだかとても話しやすい…と、いうのかしら…
なんだか不思議ですね。」

「あなたとはこれからもここで一緒に暮らしていくんですから、なんでも話して下さいね。
僕みたいな若造では頼りにならないかもしれませんが…」

ブランドンはどこか照れくさそうにそう話した。



「そんなことありませんわ。
そういえば、ブランドンさん、あなた、おいくつなんですか?」

「僕は来月で二十九歳になります。
こんな年になってまだ結婚相手もみつからないなんて恥ずかしいんですが…」

「来月で二十九歳…!
あなたは私の亡くなった息子と同じ頃にお生まれになったんですね。
なんて奇遇な…」



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