「あれ?あなた達は…」

今朝発ったばかりの私達が戻って来た事で、宿の主人が怪訝な顔をした。



「部屋はまだあるよな?
実はこの人が具合が悪そうだったもんでな。」

リュックは、背中の男をあごで示した。

男の様子は、先程より悪くなっていた。
熱があがっているのか、赤い顔をして苦しそうな息をしていた。
あのまま放っておいたら、きっとこの町に着いた途端に倒れていただろう。
いや、その前に倒れていたかもしれない。



「ぼ…僕なら…大丈夫…です…
あなた方は、もう…」

「おいおい、そんな状態で何言ってんだ。」

「ご迷惑を…おかけしては…」

「はいはい、わかった、わかったよ。」

リュックは、男を部屋に運び入れ、すぐにクロードが診察にあたった。
クロワもクロードについている。その間、私とリュックは隣の部屋で、ステファンと呼ばれる少年の相手をしていた。



「おまえ、確かステファンだったよな?年はいくつだ?」

「5つ」

「そうか、おまえは身体の調子は大丈夫なのか?」

少年は黙って頷いた。



「それは良かった。
具合が悪かったらすぐに言うんだぞ。
さっきのおじちゃんはお医者さんだ。
お姉ちゃんも、まぁ似たようなもんなんだ。」

「おじちゃんは良くなる?」

「おじちゃん?
あれは、おまえの父さんじゃないのか?」

少年は首を振った。



「そうだったのか。
てっきり親子かと思ってたよ。
あ、そうか、わかったぞ。
ローザン家ってのがおまえの父さんの家で、おじちゃんがおまえをそこに連れて行ってくれる途中なんだな?」

「……本当のパパは死んじゃったんだ。
それで、パパの友達だったおじちゃんが、パパのお家を探してくれてるんだ。」

「そうだったのか…それは可哀想にな…
おまえ達、どっから来たんだ?」

少年は少し考えてから小首をかしげた。



「どこから来たか、忘れたのか?」

「お船から降りてから、ずっとお家を探してたから…」

「なかなかみつからないのか?
……マルタン、どういうことなんだろうな?」

「そうだな。もしかしたら詳しい住所を書いたものをなくしたとか、聞く前にその子の父親が死んでしまったか…
きっと『ローザン』という名しかわからないのかもしれないな。」

「そういうことか…」

私達がそんな会話をしているうちに、少年は疲れたのか、ベッドにもたれながら眠っていた。


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