008 : 放浪者1


次の朝、私達はいつものように町を旅立った。



「あれっ?
クロワさん、そのブローチ…」

「え…あぁ、これ?」

リュックは妙な所に神経が細やかだ。
クロワが胸に付けていた小さなブローチを目ざとくみつけた。
彼女がこういったものを身に付ける事は珍しいのだが、私はリュックに言われるまでその存在に気付いてはいなかった。



「それ、昨日の雑貨屋で買ったのか?」

「え…ええ…あの…」

「クロワさん、とてもよくお似合いですよ。」

クロードが横から口を出し、クロワはその言葉に頬を染めた。



「本当によくお似合いですよ。
クロワさんはコスモスがお好きなんですか?」

「え…ええ…コスモスって可憐で素朴なのに、野性的な強さというのか…逞しさを持ってますよね。
そんな所が好きなんです。」

「まるで、クロワさんみたいですね。」

「そうだな、そういう意味ではコスモスとクロワさんはよく似てるな!」

「もうっ、リュックまでそんなことを言って、からかわないで!」



クロワが、少しでもそういうものに興味を示すようになったのは、きっと良い兆候なのだ。
働く事以外に楽しみをみつけ、そして出来る事ならクロードとうまくいってくれれば良いのだが…



町を出てしばらくした頃、私達は小さな男の子を連れた男性と出会った。
その身なりからして旅人のようだ。



「すみません。
少々お尋ねしたいのですが…このあたりにローザン家の屋敷はないでしょうか?」

「ローザン家…?
俺達、このあたりの者じゃないからなぁ…」

「……そうですか。ありがとうございました。」

男は酷く疲れたような顔をしていた。



「あの…もしかして、どこかご加減が良くないのではありませんか?」

「あぁ…少し風邪をひいてしまいましてね…お気遣いありがとうございます。大丈夫ですから…」

「でも…」

「さぁ、行こうか…ステファン…」

男が少年に声をかけ歩き出した時、その足元がよろめいた。



「危ない…!」

リュックが駆け寄り、バランスを崩した男の身体を受け止めた。
クロワもすぐに男に近付き、脈を取っていた。



「リュック、さっきの宿屋に引き返しましょう。
この方、ずいぶん熱があるわ。」

「いえ…僕なら大丈夫ですから。」

「気にすんなって。
俺達、別に急ぐ旅じゃないんだ。」

遠慮する男をリュックが背負い、クロワが少年の手をひいて、私達は今朝発ったばかりの町に後戻りした。


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