007 : 君のそばこそ1


結局、私は雑貨屋では気をひかれるものがなく何も買わなかったが、クロワやクロードは何か小物を買っていたようだ。

その後、私達はその町の宿屋へ向かった。



「なんだ、あの話はやっぱりデマだったのか…」

リュックは、いまだにあの馬鹿でかい屋敷のことが気になっていたようで、宿屋の主人に事の真相を尋ねていた。
主人は、あの屋敷が元は大金持ちの貴族の家だったらしいということや、その家が没落し、屋敷が次々と他人の手に渡ったという話はおそらく本当だろうが、屋敷を買った者が自殺をしたという話は後から誰から作った話だろうと言っていた。

おかげでクロードとの幽霊論争も再開されることはなく、そのうち、リュックの口からもあの屋敷の話は出なくなった。







「クロワさん!」

「はい、先生、何か?」

部屋へ通そうとするクロワに、用事はすぐに済むからとクロードは入室を拒んだ。



「実は……」

クロードはポケットから小さな包みを取り出し、クロワに差し出した。



「先生、これは…?」

「開けてみて下さい。」

クロワはクロードの言葉に従い、その包みを開ける。



「まぁ、これは…!」

小さな小箱に入っていたものは、ピンクのコスモスの描かれたブローチだった。



「先生…これ…」

「良かったら、普段付けて下さいね。
あなたもご存知の通り、それほど高値なものではありませんからお気遣いなく…
では、おやすみなさい。」

「先生…!」

クロードはそのまま部屋へ戻って行った。



そのブローチは、クロワが雑貨屋で気をひかれていたものだった。
何度も手に取り眺めては、こんなものは必要ない、自分には似合わない…そんなことを考えて棚に戻したのを、クロードは見ていたのだ。

そんな事が少し気恥ずかしく、でも、やはり嬉しくて…

クロワは、小さなブローチをそっと胸に抱き締めた。



(ありがとうございます、先生…)


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