「あの屋敷は、元々はこの町に住んでた貴族が建てたらしいんだ。
もうずいぶんと昔のことだけどな。
その貴族は…あの屋敷を見れば一目瞭然だが、たいそうな金持ちだったらしい。
だが、その家の放蕩息子が金を使い尽してついには屋敷を手放してしまったらしいんだ。
あんなどでかい屋敷を買う奴なんていないと思われていたが、その後、しばらくして大金持ちの商人が買い取ったらしい。
ところが、それをまたそこの馬鹿息子が財産を使い果たして手放す羽目になってしまったんだとよ。」

「へぇ、そんなことが…
そんなことがあったんじゃ、ますます買い手はつかなくなりそうだな。」

「……実はな…それだけじゃないんだ。」

男は、意味ありげに声を潜めた。



「商人一家は、世を儚んで…あの家の二階で…」

そう言いながら、男は首を締める動作をして見せた。
リュックはわずかに身をひき顔をしかめた。



「だから、いまだに買い手がつかないんだ。
すごく安くなってるらしいんだけどな。
どうだ、あんた!
買ってみたら?」

「ば、馬鹿なこと言うなよ!
そんな薄気味悪い家、タダでもいらねぇよ。」

「やっぱり、そうだよな。」

男はそう言うと、リュックの背中を叩き、笑いながら去って行ってしまった。



「なんだか胡散臭い話ですね…」

クロードが不意に口を開いた。



「え…?じゃあ、今の話は…」

「僕には本当のことはわかりませんが…古い屋敷に幽霊が出るという噂は、よくある話ではありませんか。
放蕩息子が身代を食いつぶすという事もよくありますが、その後の話は作り話なんじゃないでしょうか。
そもそも、幽霊なんてものがこの世にいるとお思いですか?」

「……俺はいると思うぜ。」

クロードは、丸い目をしてリュックの顔を見つめた。



「それは意外ですね。
リュックさんはそういうものを信じる方だとは思ってませんでしたよ。」

「俺は幽霊だけじゃなく…神様も悪魔も信じてるぜ。
それに、妖精や……小人もな。
この世界に住んでるのは、人間だけじゃないと思ってる。」

「リュックさんはロマンチストなんですね。
私はどうもその手のものが信じられない…
……現実的過ぎるんでしょうかね。」

「先生はきっと職業柄そうならざるを得ないのですよ。
……リュック、そろそろ行こうか。」

この手の話は口論の種となってしまうことが意外と多い。
そのため、私はリュックに声をかけたのだ。


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