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それからの日々は、今までよりもさらにあわただしく過ぎて行った。
本当に子供が出来ていたというニュースに、リカールは今まで私達に見せた事のないような満面の笑みを浮かべた。
それからのリカールは、普段から笑顔が多くなった。
憂いを含んだ陰のある表情が彼の魅力でもあったので少し残念な気もするが、それほどまでに彼は今幸せなのだ。
クロードが本格的に指導を始めたおかげで、マノンの体格も少しずつ変わり始めた。
急遽、ウェディングドレスのサイズを直しに出す羽目になってしまった程だ。
だが、マノンは、元々、華奢な身体付きなので、今でもすぐに妊婦とわかるほどお腹が目立つわけでもない。
勘の良い者なら気付くかもしれないが、そうでなければ少し太ったとしか思わないだろう。
ニッキーは、相変わらずチャンピオンの座を守り抜いている。
町を歩けば、必ず誰かから声がかかる。
出会った頃からまだ数ヶ月しか経たないと言うのに、彼の雰囲気はずいぶんと変わった。
垢抜けて貫禄のようなものが出て来ている。
荷運びの仕事は、彼に素晴らしい筋肉を作る手伝いをしてくれているようだ。
「いよいよ、明日だな。」
「あぁ、やっとここまで来たような、あっという間だったような…」
「俺達、ここにいいて良いのかな?」
「そういうわけにはいかんだろうな。
私達がここから出て行けば、マノンさん達もここに住める。
出て行くのが遅すぎたくらいだな。
闘技場での仕事も楽しくなって来たが、このままずっとこうしているわけにもいかないし、ちょうど潮時なんじゃないだろうか?」
「そうだよな。
俺達、居心地が良過ぎて長居しすぎたようだ。
海底神殿のこともすっかり忘れてたよ…
それに…」
リュックが何かを言いかけて口をつぐんだ。
彼が言おうとしたことは、すぐにわかった。
きっと「アイツ」のことなのだ。
しかし、口に出すと、それを奴が聞きつけすぐにここに来てしまいそうな…そんな気味悪さがあるから言わなかったのではないかと思う。
「さ、そろそろ寝るとするか。
明日も早いからな。」
「……そうだな。」
明日は、待ちに待ったマノンとリカールの結婚式だ。
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