すっかり意気消沈してしまった御主人に襲い掛かるトゲのボールを、サンダース達が追い払う。

それにしてもこのトゲのボール、なんだか電気が効かないような  

その時、アリゲイツがイライラし始め、そのボールの中心に拳を埋め込む。

するとトゲのボールは開き、そこには見慣れたポケモンが。

「このトゲつきの球体は」
「サンドパンだったのか!!」
「……通りで電気が効かない訳ね」

サンドパンは地面タイプ。電気が効くはずが無い。

正体が分かればこっちの物だ、とリナはニヤリと笑った。

「クレール!」

ランターンがコクリ、と頷いた。

そして、キュロットのポケットからクルクルクルと笛を指で回しながら取り出した。

もう  躊躇(タメラ)いは無い。

ゴールドとシルバーが驚きの目で見る中、リナは笛  フルートを吹き始めた。

それはもう、透明な音だった。

笛の音、とは決して名称し難いような  そんな美しい音色。

これにはポケモンも、ついでに二人もピタリと止まってしまう。

そんな中、止まらなかったのはランターンだけ。

ランターンは額の灯りを一段と輝かせ、水を引き寄せた。

そしてその波に  乗った。

「波乗り≠ゥ!」
「スゲェ! 有り得ねぇ位のでっかさだ!」

そう、有り得ない位に広範囲の波乗り≠セった。

三人はレディアンの神秘の守り≠ノ守られているから平気だが、そのスリルと言ったら無かった。


これが  奏でる能力=I


「ふぅ」

フルートから口を離せば、息を一つ吐いた。

ほとんどのサンドパン達は波に流され、周りには数える位のサンドパンしかいなかった。

また、そのサンドパン達は戦闘不能状態だった。

「アソコに出口が見えるわ、行きましょう」

すりすり擦り寄るランターンの頭を撫でながら、吹っ切れたような顔で微笑むリナ。

正直、格好良かった。

「リナって意外とすげぇ奴なんだな!」
「当たり前よ。わたし」
「天才だから、だろ?」
「ふふ」「へっ」

互いに出口に向かいながら、笑い合う。

自然と、心が通い合ったような、そんな気持ち。

「それにしても野生とはいえ、なんだってあんなデタラメな数…」
「ねぇ、ポケモンの本能って……知ってる?」
「なんだ、そりゃ」
「アンタに聞いてない、シルバーよシルバー」

「アンタが知ってる訳ないわ」というリナに、やっぱりさっきのは気のせいだと思った。

しかも、なんかいつのまにかシルバーと親しくなっている気がする。

……なんでか苛ついた。

「知らないな」
「そう。シルバーなら知ってると思ったんだけど」
「オイ、リナさんよぉ? オレに対して言った事と随分違わねぇか?」
「当たり前じゃない。ゴールドだもの」

サラリと言ってみせる。

だがもうリナの性格は把握済みだ。前よりは苛つかない……はずなのだが。

シルバーと扱いが違いだけで、なんだか苛々する。

多分アレだ。好敵手(ライバル)が褒められるとムカつくやつ。うん、そうだそうだ。

「それで、その本能ってなんだ?」

外へ出ると、そこには海が広がっていた。

「野生のポケモンは大きな危機の前ぶれを、敏感に悟るわ。天変地異、もしくは、それに匹敵する巨大な力を!」
「巨大な力だとぉ!?」

ゴールドがリナの言葉に驚き、目を丸くする。

一体今、このジョウトに何が起きているのだ。

「もしかして……」
「よう!!」
「こ、今度はなんだ!!」

リナが何かを言いかけた時、上から声が降ってきて、三人は顔をあげた。

するとそこには、四匹のレアコイルが作ったトライアングルの中に入り、そのレアコイルの力を利用して軍人服を着た男が宙に立っていた。

しかもなぜかその男の肩にはマリルが。

見た事があるなんて物じゃない。あれは  リナのマリルだ。

「な、なんだァ、このオッサン。しかも浮いてるよ、おい」
「ちっ、ガキども! こいつはおめえらのもんだな!? めずらしい赤いギャラドスの入ったボールもあるぜ!!」
「それよりわたしのマリルを返しなさいよ、オッサン!!」
「オッサンじゃねぇ! しかもこいつは勝手にオレに着いてきただけだ!」

そう言いながら、無くしていたゴールドのリュック、スケボー形の自転車、帽子とゴーグル、リナの鞄、リボン、シルバーのギャラドスのボール、三人分の靴を放り投げた。

その後に男の肩からリナに向かって飛び降りてくるマリル。

「マリル!!」

マリルを受け止め、強く抱き締める。

ああ、やっぱり自分は何だかんだ言って、マリルが誰よりも大好きみたいだ  

感動の再会を見届ければ、ゴールドは自分の持ち物に手をつけた。

まさしく自分のリュック、帽子やクツ達だ、と。

「ちょーっと待ったあ!!」

しかし、それに対して男が制止の言葉を叫んだ。

「手をつける前に礼くらいしろよ!」
「えーと、このたびは拾ってもらったうえ、わざわざ届けていただいて、この親切は一生忘れま…」
「NO! NO! オレがほしいのは、そんなうわっつらの言葉じゃねぇぜ」

男の言葉にすぐさま反応してぺこぺこと頭を下げて調子の良い事を言えるゴールドは逆に凄いと思った。

「情報だよ」
「情報?」
「ああ、そうだ」

別にどこぞの軍人さんに提供する情報なんて、自分達は持っていないと思うのだが。

「戦ったんだろう? あの仮面の男と」

三人は衝撃を受けた。

どうして見知らぬ軍人が仮面の男の事を知っているのだ。しかも自分達が戦った事まで。

「そのチーム、タイプ、使ってくる技、戦術、テクニック。おまえらが経験したヤツのすべて。そいつをだまってオレに提供しな」
「教えてやってもいいが…その前にこっちから質問だ」
「なんだ」
「そこに見えているのは、おまえが乗って来た船か?」
「ああ、そうだ! カントーの高速船アクア号。オレの…」

シルバーが男の後ろを指差し、男もまたそちらを見る。

すると、男は想像もしていなかった物を目にする。

「んな!?」

さっきから男の背でしていたゴゴゴゴゴ、という轟音。その音の正体がそこにはあった。

「バ、バカな!? アクア号が浮かんでる!!」

勿論、アクア号は浮遊などしない。

アクア号を浮かせる者が、確かにそこに存在する。

そう思ってアクア号の周りを見れば、アクア号の下になにかがいた。

「あれは!!」

アクア号の下には大きな鳥のシルエット。

ただの鳥では無い。アクア号を浮かせられる位の、そして、サンドパン達を騒がせる位の、「巨大な力」を持つ鳥ポケモン。

それはまるで  海の神様。

「目ざめてそうそう、とんだ修羅場に出くわしちまったぜ!!」


信じられる物見つけたなら
(突っ走るしか)
(無いでしょ!!)


20140121

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