「まぁ、それがいけなかったんでしょうね。わたしはその後、仮面の男に捕まったわ」

本当、今思い出せば馬鹿馬鹿しい物だった。

「仮面の男はあるポケモンを捕まえたがってる。捕獲には、動きを止める事によって有利に出来る。
 男はわたしの能力≠ナそのポケモンの動きを止めようと思ったんでしょうね」

拐われたばかりの時は、まだ力を制御したり操作したりが上手く出来なくて、男はリナに楽器を持たせれば、奏でさせた。

口を開けば『能力℃gえ』、と言われ続けた。

「次第に、わたしは楽器を奏でる事が嫌になってたわ。……でも」

  嫌いにはなれなかった。

嫌だ、と思っても、もう奏でたくない、とは思えなかった。

それは、あの自由に奏でていた時が、とても楽しかったから。

人間が、ポケモンが、魅了されている感じが心地好かったから。

でも、その能力≠、能力≠ニしてポケモンを操るのに使うのは、嫌だった。

自分の奏でた音で、ポケモン達が洗脳されたように、望まぬようにさせるなんて、そんなのは耐えられなかった。

自分はただ、人間達やポケモン達と、楽しく音を奏でていたかっただけなのに。

それなのに  どうして。

リナは自分の能力≠、恨んでいた。

その能力≠ェ無ければ、ポケモン達の苦しんだ顔も、冷たい氷のような男の目も、見る事は無かったも同然だ。

能力≠ウえ、無ければ  

「お前はその能力≠人助けに使っていたんだな」

  え?

リナは瞬きを繰り返し、シルバーを見つめた。何を言ってるんだ、と。

「マダツボミの塔の時の事だ。あれはワニノコの力を引き出す為の音≠セろう?」

そう言われて見れば、あの時、何を思ったのか能力≠使った気がする。

それだけでなく、リナは、ゴールドが川で流されそうになった時や、ゴースの技でポケモンが見えなくなった時も、能力≠使っている。

はるか昔に遡れば、三年前、ルナに頼まれた時も。

リナは能力≠、悪用せず、善意で使っていた。

「お前が望めば、能力≠ヘ能力(チカラ)≠ニなるんじゃないか」
「……なるほど、ね。アンタってホント、変な奴ね」
「お前に言われたくは無いが……」
「わたしは変じゃないわよ。失礼ね」
「オレだってそうだ」

シルバーを睨むが、ふと、止まってから「ふっ」と笑ってしまう。

それをシルバーは不思議そうに見つめた。

「……なんだ」
「なんでも?」

今までまともに話した事が無く、ゴールドとの会話にたまに入る位だから、いざ話してみると意外と面白いかも知れない。

「……お前は、いつ、逃げ出したんだ?」
「え? あー、そうね……確か」

リナは元々、逃げ出すつもりだった。

だが、タイミングがなかなか掴めなく、段々踏ん切りがつかなくなっていた。

ある時、リナはこっそり自分の部屋から抜け出した。

逃げ道が無いか探る為だ。

そんな時に、一つの部屋を見付けた。

そこの中を覗き込むと、自分と同じく仮面をつけた茶髪の自分より年上らしい少女と、赤みがかった茶髪の同い年らしい少年が、寄り添うように座っていた。

衝撃だったのは、その二人は怖さで震えているのに、互いを励まし合うように抱き締め合い、震えを抑えていたのだ。

リナは思った。どうしてあんな二人が、こんな所にいるんだ、と。

あの二人はここにいちゃいけない。


リナは、脱走を決意した。


自分が脱走する事で、二人を脱走するように煽り、また、二人の脱走を楽に出来る。

二人が脱走を決めなければ無理だが、決めるなら、恐らく自分に多く追っ手が立ちはだかるので、二人への追っ手は減る。

自分は特別枠≠ネのだから。

普段は大嫌いなこの言葉に、今は皮肉を込めて笑ってみせる。


さぁ  脱走開始だ。




「その時の二人ってさ」
「……ああ、恐らく、オレと姉さんだ」
「やっぱり……」

リナは口許に優しい笑みを浮かべた。

良かった。やはりあの時の二人はちゃんと逃げ出したんだ。

ジョウトに来て、記憶を無理矢理消した時に、シルバーを見ると仮面の男の事を思い出しそうだったから、もしやとは思ったが。

「……じゃあ憧れの女って」
「え、何?」
「いや、なんでもない」

ぼそぼそ喋ったシルバーの言葉は、リナにはよく聞こえなかった。

(……姉さん。いたよ、「あの人」が)

昔から話していた。

あの人が脱走してくれたおかげで、脱走の踏ん切りがついた、と。

自分達を逃げ出しやすいようにしてくれた「あの人」に感謝しようね、とも。

「あの人」は二人にとって憧れの存在だった。

「あの人」が居なければ、仮面の男から逃げ出す事が出来なかったに違い無いから。

いつか「あの人」に会って話をしよう、と決めていた。

シルバーは、いつのまにか「あの人」に会っていたのだ。

(やっぱり「あの人」は優しい人だったよ、姉さん)


遠い日の音色は今も
(わたしはあの二人が)
(凄く、羨ましかった)


20140120

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