「う……、懐かしい、夢だったわね」

息を吐きながら、リナは微睡(マドロ)みから目を覚ました。

どの位寝てただろうか。

きっと一日やそこらでは無いだろう。

髪が顔に張り付いていて、どかすために髪を手で梳(ス)くと、リボンが無い事に気が付く。

「あ!」と思ったが、それよりもゴールドとシルバーはどこへ……、

「……いた」

周りを見渡せば、二人が隣で眠っていた。

ほっ、と息を吐いた自分は、本当に変わったと思う。

安心した途端に大事なリボンを探す自分は、相変わらずだと思う。

「はぁ、リボンどころか荷物まで無いし……」

幸いなのは、あの男との戦いの中だったから、ボールが腰にあるという事だった。

いつもは鞄の中なのだから。

ボールが無かったら、それこそ絶望する。

ちゃんとボールは5個……5個?

マリルは!!?

バッ、と辺りを見渡すが、どこにもいない。

やっと向き合えると思った、自分の、大事な……兄弟!!!!

「いや、まて……マリルは大丈夫。あの子はわたしと一緒にあの男から逃げて来たんだもの。大丈夫よ……」

自分に言い聞かせるように、静かに言う。

大丈夫、だってあの子は水に強いから。

「……ねぇ、起きてるんでしょ?」

起きてる気配がする。人の一人言を聞いて置いて寝たフリとは質が悪い。

「シルバー」

初めて面と向かって名前を言ったかも知れない。

シルバーは、仕方無くといった面持ちで起き上がる。

「……」
「どうにか三人共、命拾いしたみたいね」

もっとも、拾ってくれた奴がいるのだが。

「……おい、お前は」
「……何?」
「仮面の男から逃げ出してきたのか?」
「そうよ、アンタと同じ」

仮面の男と戦った時に、リナの名前も呼ばれていた。

だから、もしかしたら、と思ったのだが、当たっていたようだ。

「まぁ、アンタと同じって言っても、特別枠≠ニしてで、わたしは一人だったんだけどね」
「……特別枠≠セと?」
「そ。わたしはアンタ達とは3年も離れて拐われてきたわ」

つまり、シルバーとリナが5歳の時だ。

どうして一緒に捕まえず、リナだけ中途半端な時に  

「わたしは教えられた事は何も無い。
 ただ、能力≠利用されただけだった」

リナの能力≠ヘ、仮面の男の野望を叶えるには非常に役立つ物だった。

シルバー達が拐われた時には、リナの能力≠フ情報は無かった。

だから拐わなかったが、その3年後に、リナが能力≠使っている所に出くわし、拐ったのだ。

「その能力≠チて、一体何だ!?」

シルバーが問いただすような口調で聞くものだから、リナは口を閉ざした。

しかし、隠したって無意味だろ、とまた口を開いた。


「奏でる能力=v


そう、それこそが、リナにとって忌まわしい物となってしまった能力=B

この能力≠、男の元から逃げた後、ほとんど使わなくなった。

なぜなら、男が狙う位の力を持っているのだから。

「この能力≠ヘ、最初は気付かなかった。それ位に、何気無く発動してたわ」

奏でる能力≠ヘ、呼んで字の如し、奏でる℃魔ノよって発動する。

だが、小さな頃のリナは、ただ単に楽器を演奏する事が好きだった。

昔から天才で、なんでもすぐに出来た。

勉強も、運動も、  楽器も。

すぐに出来るようになった物で一番好きだったのが、楽器だ。

綺麗な音を奏でていると、凄く落ち着いた。

そのリナから奏でられた音は、人間も、そしてポケモンも、魅了された。

だから、誰もリナの特別な能力≠ノ気付かなかった。

けれどある時、リナは「ハーメルンの笛吹き男」の真似をした。

「ハーメルンの笛吹き男」というのは、その昔、ハーメルンに鼠捕りを名乗る色とりどりの布で作った衣装を纏った男がやって来て、報酬と引き換えに街を荒らしまわる鼠の駆除を持ち掛けた。

ハーメルンの人々は男に退治の報酬を約束した。

すると男は笛を取り、笛の音で鼠の群れを惹き付けると、ヴェーザー川におびき寄せ、鼠を残さず溺死させた。というお伽噺があった。

リナはそれの真似をしたのだ。

自分もまたフルートを取り、フルートの音で森の中を歩き、野生ポケモン達を惹き付けて、自分の後ろに列を作って見せた。

勿論、溺死なんてさせずに、森の中をその状態で一周しただけだが。

その時、リナ自身は自覚していなかったが、その様子を見ていた人達は思った。

リナはそれこそハーメルンのように、ポケモン達を音≠ナ惹き付け、目的通りの事をさせられるのだ。

目的通りの事、というのは、きっとリナが込めた思いだろう。

だから、笛を吹いたらみんなが着いてくる、と思ったリナの願いが叶ったのだ。

その事実を知り、誰かに狙われてしまうかも知れない。

  と思いはしなかった。

周りの人達は、リナを誉め称え、町の誇りだ、とやいのやいの騒ぎ始めたのだ。

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