「テ…、テッポウオの大群だ!!」
「ふせろ! 船体にも激突してくるぞ!!」

おじさんが舵を握ったままそう言うので、三人はその言葉通りに伏せた。

ブラッキーが守る≠使って三人への攻撃を防いでいるが、いつまで続くかは分からない。

「しかしなぜ!? これでは船を進ませることができん!」
「テッポウオの狙いは正確で、噴き出す水は100メートル先で動く獲物に必ず命中するので気を付けてください!」
「ええ!?」

イエローがその言葉に驚いた声を出した。

昔からルナは無意識に、イエロー達を脅かす癖があるようだ。

「おさまる様子がないですね! だったら…」

このままでは埒(ラチ)が明かないと思ったのか、クリスはある行動に出た。

「全部『捕獲』します!!」
『えええ!!』

こんな大量のテッポウオを『捕獲』しようというのか。

「パラぴょん、キノコのほうし≠フ散布範囲を広げて!!
 3人とも、少しの間息を止めて!!」

パラセクトがクリスの言葉で背中のキノコ部分を膨らませた。

そして3人は言われるがままに口に手を当てて息を止めた。

ブラッキーの守る≠ヘ、もう消えかけていたからだ。

パラセクトのキノコのほうし≠ェテッポウオ達に降り注ぐと、テッポウオ達はとろ〜んとした目になった。

いわゆるねむり≠フ状態だ。

「よォし!」

クリスは鞄の中のモンスターボールを、床に円形に並べ始めた。

何をするのかと三人はクリスをじっと見つめる。

「ふううう」

そのボールの円の中心で息を吐き、構えの姿勢を取る。

「はっ!!」

勢いをつけて、円形のボールを自分自身が弧を描きながら回り、それらを全て蹴りあげた。

その蹴りあげたボールは的確にテッポウオに当たった。

そして降ってきたのは無数のボール達。

「あたたた」
「いててて」
「うわわ」

もうアサギ湾は、静まり返っていた。


「『捕獲』、完了しました」


クリスは綺麗な笑顔を浮かべた。

辺りには、テッポウオの入ったボールが散らばっていた。

本当に全てを『捕獲』してみせた……!

「すごいすごい!!」
「こんなにいっぱい!」
「専門家(スペシャリスト)とは聞いてたが、これほどとはな」

三人はこのクリスの捕獲捌(サバ)きに、各々驚いたような反応をする。

「ボクなんか捕獲が苦手で、野生のポケモンを捕まえたことなんて数えるくらいしかないから…尊敬します!!」
「私は本当に一回しか無いので、是非レクチャーして欲しいです!!」
「え!?」

ズル、とクリスタルが驚きを隠せないというようにずっこける。

クリスはこの二人に、主に呆れの意味で驚かされる。

(どうりでベロリンガの時もあんな原始的な方法で…。
 でも大事件を解決したトレーナーとリーグで入賞したトレーナーだっていうし…。強いんだか弱いんだか)

なんだか呆れを通り越して、二人の事を不思議に思ってきた。

「あれ? クリスタルさん、あなたのパラセクト、ケガしてますよ」
「ホント! わずかだけど切りキズが」
「あれだけの数だ、捕獲されるまぎわに反撃したヤツもいたんだろう」
「早く治療してあげないと!」

クリスがキズぐすりを取り出そうとした時、イエローがキズに手を当てた。

するとほの白く輝き、みるみる内に傷が消えていく。

「え!!」
「おどろくことはない。いやしの力…、イエローの持つ特別な才能なんだ」
「トキワの人間だけが持てるんですよ!」

クリスは素直に凄い、と思って口許に笑みを浮かべた。

(ちょっと疑ってたけど取り消し!! やっぱり特別なトレーナーなんだわ!! ルナさんの知識だって今考えればとっても凄いし!!)
(このパラセクト、すごくよくきたえてあるみたいだ。さっきの捕獲といい、さすがオーキド博士が図鑑をわたしたトレーナーだなァ)
(パラセクトがクリスタルさんに凄くなついてるのが分かる=c…凄く冷静な判断が出来るし、真面目そうな人!)

三人は互いに、互いを分かってきたのか、見直す。

「うふふ」
「えへっ!」
「ふふ!」

顔を合わせて、微笑み合う。

もうクリスタルは二人の事を変な人達だなんて思わなかった。

「よろしく、イエローさん、ルナさん! わたしのことはクリスとよんでください!」
「ハイ。わかりました!」
「クリスさんですね!」

クリスは、二人と順に握手を交わした。

二人の手は温かくて、どこか自分を安心させる物があった。

「け、敬語はなしです! わたしが年下なのに…!」
「はっはっは」

そう言われても二人は困ってしまう。

ポケモン達以外には敬語が癖のようなものだからだ。

ルナに置いては、三年かけても赤い彼にまで敬語なのだ。敬語で話すなと言われる方が大変だ。

「…、そういえば。ポケモンの大移動…、前にも同じことがあった。去年のふたご島…」
「あ! そういえば……」
「オーキド博士はあの時、『野生の生物が大きな危機の前触れを察知したから』といってました。今回ももしかして…」
「残念ながら否定出来ませんね……ポケモンの本能は、ほとんど同じですから」

そんな事を言っていると、どこからかゴゴゴゴという音がしながら、揺れが大きくなる。

「イエロー、やばいぜ!! おまえのイヤな予感が当たっちまった! 舵がきかん! この船はすでに…」
「すでに!?」
「なんですか!?」
「見ろ!!」

おじさんの声を聞いてから改めて辺りを見てみると、そこかは静かなアサギ沖合いでは無くなっていた。

唸り声にも聞こえる音を発しながら、渦を巻いていた。

「きょ、巨大なうずの中にいる!!」
「このあたりはうずしおの発生する海域といわれているが、これほどとは聞いたことがない! なんとか脱け出さないと!」

早く渦から脱け出さなければ、渦の中心で船ごと木っ端微塵になってしまうかもしれない。

その時、クリスが何かに気付く。

「見て、うずの下に…、うずの下に何かいます!!」
『あれは!?』

そのシルエットは鳥のような形をしていた。

そして、1年前にイエローが見たという鳥のシルエットとそっくりだった。


疑念信頼へと変わり
(天才が目覚めるまで)
(もう少し  

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