「えー!?」

クリスは驚きの声をあげた。

それもそうだ。見知らぬ二人から「探してました」なんて言われたら。

相変わらず二人はにこにことしている。

普通のピカチュウを見て、

「え?」

リボンをつけたピカチュウを見て、

「え?」

頭が跳ねたピカチュウを見て、

「え?」

花のついたピカチュウを見て、

「え?」

似顔絵の描いてある紙切れを見て、

「え"?」

思わず「わ、わたし?」と疑いたくなるような絵だった。

平仮名で上に「ほかくのプロ」と描いてあり、(恐らく)自分の絵が描いてある。

いや、今は絵は関係無いんだ。

「探してたって、わたしを?」
「ええ! よかったァ、やっぱりここアサギに来てたんですね」
「良かったですね、ここに来てみて!」
「ハイ!」

麦わら帽子の少年がお日様の笑みを浮かべ、真っ白なリボンに赤いバンダナの少女は向日葵の笑みを浮かべ、ほのぼのと話している。

「あなた達は誰!? やっぱりアサギってどういうこと? なぜわたしのこと知ってるの?」
「そんなに一度に聞かれても…」

「ねえ!」と真っ白なリボンの少女に話を振ると、「ふふ、ちょっと困っちゃいますよね」と人の事を言えない事を言ってみせる。

少女だって心配になると弾丸のように言葉を並べてくるというのに。

「さあ、行こう!」
「レッツゴーです!」

麦わら帽子の少年と真っ白なリボンの少女が進むと、不思議とクリスタルのポケモン達までもが二人に着いていってしまう。

そんなマイペースな二人に、クリスはかくん、とずっこけてしまう。

「ちょ、ちょっと待ってえ〜!!」

すぐさま二人の元に駆け寄った。

「説明して! とにかく事情を説明して!!」
はーっ、はーっ、と荒く息をしながらクリスは麦わら帽子の少年の方の肩をがっしりと掴む。

なんだか怖い顔になってますよ、なんて思っても言わないのが向日葵の少女である。

うん、成長したなぁ。

そんな悠長な事を考えていると、二人の背後から何かが迫った。

そしてクリスが気が付いた時にはもう、麦わら帽子の少年とベイリーフが、向日葵の少女と大きな桃色のポケモンがそれぞれなにかに巻き付けられた。

「な、なに!?」

巻き付けられた物の根元を見ると、そこにはポケモンが。

「野生のベロリンガ!?」

それは舐め回しポケモンのベロリンガの舌だった。

ベロリンガはわんさかいて、数えきれない。

「でも、なんで突然…」
「ベイリーフ。葉っぱポケモン。高さ1.2m。重さ15.8kg。首の周りから発散するスパイスのような香りには元気を出させる効果がある」
「え……!?」
「きっとその子の首の周りからですスパイスの香りに釣られたんじゃないでしょうか?」
「そうか! 進化したてで、メガぴょんもまだ自分の体を充分コントロールできてないから!」

図鑑の内容をさらさら言う少女に驚きながら、言った事に納得する。

だが、少女の方と分かれたのはなぜ……?

「あ、ちなみにこっちは、この子の新鮮なタマゴを狙ってきたんだと思います」
「その子は、えっと……」
「ハピナス。幸せポケモン。高さ1.5m。重さ46.8kg。あ、御免ね体重言っちゃって。それで、ハピナスが生んだタマゴを一口でも食べた人は誰にでも優しくなると言われてます」

長い説明の途中、重さを言った事により、ハピナスがイヤン、という顔をしたので向日葵の少女は一言謝ったのだ。

それにしても彼女は何者だろう。自分が図鑑で調べる前に、内容を一言一句間違えずに言うなんて。

もしかしたら、こんなにマイペースに見えても、凄い人なのかもしれない。

「という事は、甘党vs卵好きですね!」

……やっぱり、ただの思い違いかもしれない。

「とにかく助けないと! ……え?」

それは一瞬だった。

向日葵の少女が何かのポケモンを出し、小さく、それでいて強く発光した事によってベロリンガが逃げ出したのだ。

「何が起きたの……!?」
「フラッシュ≠ナすよ。ゲッコウの額の模様から小さく光を放ってもらったんです。ベロリンガ達の視線は一つに集まってますからね!」

優しく、にこっ、と笑う彼女は本当に向日葵のようだった。

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