場所を移し、今度は凄く大きそうな場所に辿り着く。 「ここは?」 「服を入れている部屋です」 普通は、部屋の中に服を入れるタンスがあるものだが……服を入れるタンス代わりの部屋があるのか。 相変わらず、この家には驚かされる。 今日だけで何度驚いた事かわからない。 正直このままここにいたら、驚きったぱなしな気がする。 「イエローさんもお洒落していきますか?」 「ボ、ボクは遠慮しときます!」 「そうですか……?」 まだ、バレる訳にはいかない。まだ、 「わぁ、広い!」 中に入ると、服を入れる部屋だとは思えない位に広かった。 例えるならテレビのタレントが利用していそうな衣装部屋。 いや、やはりそれよりは広い。 「母は、服のセンスはあまり良く無かったようですけど、お洒落は好きだったらしいです。だから、センスの良い父に選んで貰っていたみたいです」 「へー! 仲が良いんですね!」 「はい、とても!」 凄く晴れやかに笑ってみせる彼女は、両親の事が大好きなのだ、と伝わってきた。 イエローまで嬉しくなってくる。 「ご両親は今どこに?」 「天国でしょうかね?」 「…………………え?」 「言ってませんでした? 私の両親は、私が五歳の時に亡くなりました」 サラリ。 不自然な位にサラリ、と言ってみせるルナの言葉に、汗をだらだらとかく。 な、ん、て、こ、と、き、い、た、じ、ぶ、ん。 「御免なさい!!!!」 「え!? そ、そんな……顔をあげてください!」 「本当に、御免なさい!!!!」 必死で、必死で、仕方がなかった。 自分は、自分の憧れの人を、……傷付けた!! それだけでイエローは後悔に苛まれ、自分が許せなかった。 先程の顔を見れば、両親の事が大好きなんてわかる。 そんな両親が亡くなったら、絶対に悲しくて、絶望したに違いない。 その傷を抉るような事を、自分は……! 「御免なさい、御免なさい、御免なさい、御免なさい、御免なさい、御免なさい、御免なさい、御免なさい、御免なさい……!!!!」 何度も、何度も、涙を流しながら謝った。 分かってる。謝ったからってどうなる訳でも無いし、その罪が許される訳でも無い。 でもイエローは、許して欲しいとは思わなかった。 ただただ、憧れの人を傷付けた事が、自分で許せなかった。 この人がそんな事をするはずが無いと知ってるが、殴られたり蹴られたりしても、構わなかった。 逆にそれ位してもらわないと、気が済まなかった。 「本当に、本当に、御免なさ 「もう、良いんですよ」 フワリと自分を抱き締める誰かの優しい香りが鼻をくすぐった。 誰か、なんてルナしかいないが。 「でもっ、ボク……っ」 「良いんです」 「……っ」 優しく、本当に優しく言われる。 どうして? 許せるはずが無い。だって、人が一番触れてはいけない所に、触れたのだから。 「私は、三年前までは、両親の事、引きずってました。嘘だ、あんなの嘘だ、って否定して、殻に綴じ込もってました」 「……っ、ならやっぱり」 「でも、旅をして、色んな人と出会って、分かったんです。死を 死を否定するのはただの逃げだ。 大好きなママやパパは、もう、いない。 でも、それを否定して、死を無かった事にするのは、両親も望んでいない。 両親の死にいつまでも囚われ、泣いている姿なんて、あの人達は見たくない。 それよりも、自分達の死を受け入れ、色んな人達と関わって笑顔でいるのを望んでいる。 幼い自分にピカチュウやロコンと、ポケモンを与えてくれたのは、自分を寂しくさせない為だと、そう思う。 だから、いつまでも否定していちゃ駄目だ。 もういない人に囚われず、今いる大切な人と向き合うべきだ。 「私の為に、涙を流してくれて、有り難う。でも、もう泣かないで?」 イエローはそう言われても涙を流し続けた。 なぜならルナの声があまりにも優しくて、初めて会った時と同じ口調だったから。 だから自分も、女の子みたいに泣きじゃくった。 ルナは泣き止むまで優しく抱き締め、撫でていてくれた。 # # # 泣き止むまで、相当な時間を要してしまった。 そしてやっぱりイエローの第一声は「御免なさい……」だった。 「気にしないでください」 「……はい」 「ほら、元気を出して!」 バンバン、と背中を叩く。 思わずゴホッ、と咳き込んでしまう。 「元気出さなきゃ四匹の10万ボルト≠ェ飛びますよ!」 「そ、それは嫌です!」 「ふふ、冗談ですよ!」 「良かったー……」 イエローが無いに等しい胸を撫で下ろすと、ルナがクスクスと笑い始める。 それを見て、自然とイエローも、アハハと笑い始める。 もう大丈夫。いつも通りの自分だ。 「でも良かったです」 「え?」 「今まで知らなかったルナさんの事が、知れて」 一瞬きょとんとしてから、ルナは頬を赤くして微笑んだ。 「ふふふ、だって私達はもう友達=Aですからね!」 「友達=c…」 今度はイエローの方が頬を赤くして微笑んだ。 「さて、早くしないと陽が暮れてしまいますね!」 「着替えるんですか?」 「はい! えーと、リナが言ってた服は……と」 広い衣装部屋の中をキョロキョロと見渡して、服を探している。 イエローもまた、衣装部屋の中を見渡す。 手前の方には普通の服が置いてあるが、奥の方にはドレスやら水着やらメイド服(!?)やらと色々、普段着れない服が並んでいた。 「あ、ありました!」 そう言って黄緑のベストを取り出す。 「それは?」 「リナが仕立ててくれた服です! レッド君から貰ったバンダナがなんだかカウガールみたいだからきっとこっちの方が似合う、って言ってたんです!」 「リナ……?」 「あ、リナは私の妹です!」 「妹がいたんですか?」 「はい! 天才で、なんでも出来るんですよ! あ、イエローさんより年下なんですけどね!」 先程と同じ位、意気揚々と喋るルナ。 さぞかし可愛い妹なんだろうなぁ、と想像するが、恐らくその想像は大外れだ。 「よいしょ、と」 いつもの黄緑の半袖を脱いで、そのベストを着る。 「どうですか?」 「お似合いです!」 ベストを着た事により、白い長袖がいつもより多めになる。 彼女はやはり清らかな存在だ、と思わせる位に真っ白な服がピッタリで、思わず見いってしまう。 「あ、そうだ。見つける前に見付けたんですが、この帽子凄くイエローさんに似合いそうなんですが、どうでしょう?」 「え。ボ、ボクには可愛過ぎますよ!」 「そうでしょうか……」 取り出したのは黄色い帽子。サイドには白いリボン。 本当に自分の事を男だと勘違いしてるのか、という程の可愛い帽子だった。 「一回被ってくださいませんか?」 「え"。そ、それは……」 「駄目ですか……?」 「……っあ、あそこの試着室を借りてなら!」 「帽子だけですよ?」 「う……」 駄目だ。言い逃れ出来ない。 どうしよう、と思っていると、ルナは微笑んだ。 「無理にとは言いません。私ってあまり服のセンスが無いですからね。やはり少し違いましたよね」 「そ……そんな事は無いです! す、凄く、嬉しかったです……!」 本音だった。 男と勘違いしているのにも関わらず、可愛らしい帽子を勧められて、凄く、嬉しかった。 本音という事が分かったのか、ルナは驚きながら微笑んだ。 「有り難うございます!」 # # # 次はルナの部屋へと行く事となった。 鞄を取りに行き、そして荷物整理をする為だ。 有り得ない位にドキドキしている。 「さぁ、着きました」 部屋は二階にあり、かなり広い空間に出た。 そして扉にかけてある名前プレートに「ルナ」と書いてあり、ピカチュウの形をしていた。 「散らかってるかもしれませんが、気にせず……」 ちょっと困った顔で照れ笑いするのがなんとも可愛らしく、ときめいてしまうが同性愛へは決して目覚めない。 「うわぁ、綺麗だなぁ……」 そして勿論散らかってるなんてとんでも無い。 綺麗に整っていて、時折ポケモンのぬいぐるみがちらほら見受けられる。 「可愛いなぁ! ピカチュウのぬいぐるみだ!」 「えへへ、実はそれを抱いて寝てるんです」 「ぬいぐるみを!?」 本物を持っているのに抱き締めて寝るのはぬいぐるみなのか、と思ってしまう。 だがしかし、ぬいぐるみを抱っこしながら寝てると思うと、ちょっと、いやかなり可愛い。 「チュカだと潰しそうで怖いんですよ」 「アハハ、まさかー」 彼女が寝相悪いはずが無いじゃないか。 そう笑うと、ルナは遠慮がちに笑った。 本当に自分の事を知らない人だ、とむしろ微笑ましく思う。 それから荷物整理をしに、ベット周辺にある鞄のもとへ向かう。 ベットは天蓋付きというまさしくお嬢様のベットで、初めて見るそれに驚いた。 「荷物はこれで大丈夫、と」 「くー、くー」 「って、あれ……」 ベットの上では気持ち良さそうに眠るイエローが。 高級なベットだから、寝心地は最高なのだ。 だから、お昼寝大好きなイエローにとっては幸せな環境だった。 しかもルナと同じ、温かくて優しい匂いに包まれたら、これは寝るしか無い。 (しー……) ルナはポケモン達に起こさないように、と口元に指を持っていった。 ポケモン達はコクリと頷き、黙る。 (ふふ、幸せそう) そっと羽毛布団をかけてあげると、イエローはより一層気持ち良さそうに寝息をたてた。 (あ、そうだ。これを持っていけと言われたんだった) ルナは二枚の羽根のような物を鞄に刺した。 『これは御守りだ、持っていってくれ』 リュウが言うのだから、御守りだ、としか思っていなかった。 羽根のような物を刺した鞄をまた側に置けば、イエローの横にゴロンと寝そべる。 (おやすみなさい、イエローさん) ふふ、と笑って目を閉じる。 どうやら旅は、まだまだ先のようだ。 純真無垢な白の彼女 (暗い記憶があるなんて) (思えない位純粋な貴女) 20140118 ←|→ [ back ] |