初めての事、というのは非常に驚きや衝撃なんてものが付き物だが、

これはさすがに驚きすぎた。

驚きで呆けていると、心なしか麦わら帽子がずれた気がしたので、直す。

「あの、ルナさん……」
「はい? なんですか、イエローさん?」
「ここって……何ですか?」
「え? 何って……」

困惑するイエローに、ルナの口からサラリと溢れる。

「私の家ですが」

あり得ない。そう思った。

いや、別にルナ自身はまさしく良い所の御嬢様という感じで納得なのだが。

しかしこんな田舎な辺鄙な場所に、なんだか似つかわしく無いと思ってしまう。

「そういえば、イエローさん初めてでしたね! ちょっと広く感じるかもしれませんが、おきにならさず」

ちょっと、じゃない事なんて外装を見ただけでわかる。

思わず「嘘だ!!」と叫びたくなる。

そんなイエロー・デ・トキワグローブは、格好いいフルネームを持っておきながら一般人だ。

「あ、それから、この庭には」
「うわぁぁぁぁあ!?」
「……遅かったですね」

いきなり庭から、ここまで歩いてきたイエローに向かって突進してくるポケモン達。

正直、多すぎて目の前が見えない。

イエローがあわあわと困っていると、天使の声が降り注ぐ。

「みんな、イエローさんが困ってるよ?」

そうルナが言うと、ポケモン達はしょぼんとしながら身を引いた。

解放されたイエローはふぅっ、と息を吐いた。

「イエローさん大丈夫でしたか?」
「は、はい、なんとか……」
「御免なさい、苦しかったですよね……でも、さすがです。みんな少しも警戒せずに、すぐになついちゃいました!」

クスクス、と可愛らしく笑う彼女は本当に可愛い。

「い、いえ……みんなルナさんのポケモン何ですか?」
「あ、違うんです! 捕まえたポケモンも一部いますが、だいたい野性です!」
「ええ!?」
「捕まえたポケモンも、ボールから出しているので逃がした扱いになるんじゃないですかね?」

イエローは驚いた。さっきから驚いてばかりだが。

確かに、このポケモン達はなんというか、開放的だ。

「ここから逃げたりしないんですか?」
「逃げませんよ。だって  

  家族だから。

そう言って、ふんわりと優しく向日葵が咲いた。

イエローはその向日葵を、ぽぅ……と見惚れたよう見詰める。

「……イエローさん?」
「あっ!? ああ、すみません!」
「ふふ、そんなに謝らないで良いですよ」
「うう……すみません……」

それでも恥ずかしそうに謝る所が、さすがはイエローだといった所か。

「さぁ、こっちですよ」

スカートを翻しながら、また歩き始める。

イエローは慌ててそれに着いていく。

待てよ、なんでこんなに歩いてるのに家に着かないんだよ。

明らかに庭から家までが遠すぎる。

そりゃあ、たくさんのポケモンを放す事が出来るよなぁ、と一人で納得してしまう。

そして永久に続く気さえした庭はとうとう終わり、案外普通なドアが待ち構えていた。

この普通なドアは、これを建てたルナの母が、「私(ワタクシ)、重いドアは嫌ですわ」と言って普通になったのは、イエローは勿論、娘のルナは知らない。

「はい、お入りください!」
「あ、有り難うございますっ!」

ギィッ、と扉を開いてイエローが入るのを待つ。

予想はしていたが、イエローはまたしても驚きな物に遭遇する。

中はピカピカと光っている気がする位に綺麗な床で、しかも凄く横幅から奥行くまで広く、イエローが知っている廊下とはかなりかけ離れていた。

「広いなぁ……」
「そうですねぇ、さすがに私もそう思います……」
「あ、ですよね」

こんなに広いのだ、何年も住んでいるルナにとってだって大きいと思うのが普通だ。

逆にこれをあまり広く無いと言ったら、皮肉かこの野郎とか思ってしまう訳であります。

「でもちゃんと狭い部屋もあるんですよ!」

言いながら近場に走っていき、扉を開けた。

それでも広くて、広いじゃねぇか、とか思ってはいないが、やっぱり苦笑いにはなる。

そんな時、テーブルで、高い椅子に器用に座りながら何かの遊戯をやっているポケモン二匹。

「ピカチュウ……ヒカリ、とブラッキー……何してるんですか?」
「えーと、チェス、ですね」

嘘だ!! ポケモンがチェスをやるなんて絶対嘘だ!!

とか思って見るが、やっぱり本当にチェスなんて大人の遊戯をしている。

うわぁ、全然ルールわかんないなぁ。

「あ、ゲッコウ(ブラッキー)が勝ちました」
「勝ち負けついたんですか!?」

さすがにもうボケ要員であるイエローも突っ込まざるを得なくなった。

「と、いうか、なんでヒカリが……」

脇ではイエローのピカチュウであるチュチュがヒカリにがばちょ、と抱き付いていた。

「ああ、リュウさんが、ヒカリ君をチュチュちゃんの所にいさせてあげろと」
「なるほど……」

先程の行為から分かる通り、リュウのピカチュウのヒカリは、イエローのピカチュウであるチュチュと恋人同士である。

三年前に、リュウがある女の子  言わずもがなイエローだが  を助けた事により、トキワシティ周辺によく行くようになった。

そうなると、必然的にトキワの森による事も多くなる訳で。

チュチュはヒカリに、なんと一目惚れしたようだ。

ポケモンはトレーナーに似るというが、ヒカリはリュウの冷静さは似たが、鈍感さは似なかった。

なので、すぐに二匹は結ばれる事となった。

わざわざ二匹を、ジョウトの有名な育て屋に預けてタマゴとやらを待ったが、結局は見つからずカントーに戻ってきたという事もあった。

……こっそり生まれていて、誰かさんが持ってるだなんて事を知らずに。

「このブラッキーは……? こういう色でしたっけ?」
「……その子は、色違いなんです」
「へー! 色違いなんているんですね!!」

わぁっ、と目を輝かせて、イエローはブラッキーを見た。

ブラッキーは見た目通りクールな対応で座っていた。

「あはは、格好いいや!」

イエローがブラッキーを撫でていた時、ルナが腰のボールからポケモンを全て出した。

「? どうしたんですか?」
「ゲッコウを連れていこうと思って」
「あ、七匹になっちゃいますもんね」
「一年前は、バトルに出すつもりは無くて、普通に持っていってしまいましたけど」

ルナのポケモンはピカチュウ、キュウコン、シャワーズ、ジュゴン、サンドパンと  

「あれ、この子……ハピ!?」
「ふふ、はい。進化したんです!」
「可愛いなぁ!」

ラッキーは進化していて、ハピナス≠ノなっていた。

ラッキーの時より大きくなっていて、手に羽根のような物がついていて非常に可愛らしい。

「この子はハピナスと言って、幸せポケモン≠ネんです! この子が生んだタマゴを一口でも食べた人は誰にでも優しくなれると言われています!」
「素敵なポケモンですね!」

自分が褒められている訳では無いが、自分のポケモンを褒められたら気分は良くなる訳で。

ルナは照れたように笑った。

「さて……誰と交換すれば良いかな」

その言葉を聞いた瞬間、メンバーはサッと身構えた。

これは……所謂、リストラ!!

別にそういう訳でも無いのだが、とっさにポケモン達が思った事はそれだった。

「み、みんな険しい顔付きになりましたよ……」
「あ、あら……」

それもそうだ。みんながみんな、ルナと旅をしていたい。

「どうしましょう……」
「うーん……」

ここに誰かさんがいたら、「なら、バトルで決めたらいいじゃんか!」とか言うに違いないが、二人には出てこない発想だった。

二人は極力、バトルは避ける方だ。特にイエローがそうだった。

「んー……チュカとゴンちゃんは外せないし……ハピも……うーん……」

考え込み過ぎて頭から煙があがってしまう。

「だ、大丈夫ですか……?」
「は、はい〜……」

その時、トントンと叩かれるルナの体。

不思議に思い、そちらを向けば、にこにこと微笑むサンドパンがいた。

「サン? どうしたの?」

首を傾げれば、サンドパンがゲッコウまで歩み寄り、タッチしてみせる。

「まさか……自分から譲ってくれるの?」

コクン、と頷いてみせる。

もし通じなかったら、自分がサンドパンの意思を読み取ろうと思っていたので、イエローは安心した。

彼女に、トキワの能力はいらないみたいだ、と。

「有り難う、サン! すぐ、帰ってくるからね!」

ぎゅっ、と抱き締める。

トゲが微かに痛かったが、それでもサンドパンの体は柔らかかった。

「じゃあ、ゲッコウ、この中に入って」

ルナはブラッキーにボールを差し出した。

両親のポケモンなので、ボールはハイパーボールだった。

少しの間、ブラッキーはボールを見つめていた。

ブラッキーは頭が良いからか、どうにも気難しい性格だから、すぐにボールには入りたくないのかも知れない。

それとも、自分にまだ気を許していないのかもわからない。

ルナは少し、緊張で体を固くした。

しかしルナの心配なんて知ってか知らずか、ブラッキーはボールに入らず肩に飛び乗った。

突然の重量に、おとと、と体が不安定になってしまう。

「あ……もしかして」

1年前に連れて行った時は、ずっとボールの中だった。

だから、こうやってボールの中に入らず自分の体に飛び付いたという事は、

ピカチュウのように、肩に乗って、一緒にいたいのかも知れない。

「有り難う……ゲッコウ」

柔らかく微笑むと、ブラッキーはフッと微笑んだ。

「よかったですね!」
「はい!」

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