「グリーン!!」 「グリーンさん!?」 「戻ってきてたのか!?」 声のした方向を見て、そこに立っていた人の名前を見に来ていたイエロー、ナナミ、レッドが言った。 側にいたルナはグリーンが陰になっていて見えなかったが。 「なんだね、キミは!!」 審査員の内の一人の声を無視し、グリーンはすたすたと歩みを進めた。 すると、レッドの前まで行き、その左手を掴んだ。 掴んだ事により、痺れがレッドの左手に走った。 「おかしいと思ったぜ。あのときわざわざ自転車に乗っていたのはこのせいか」 確かに、あの時レッドはスオウ島のでこぼことした場所にも関わらず、自転車に乗っていた。 自転車なら、地力で歩くよりは辛くは無いし、両手は固定されたままで良い。 「まあ、今回は自分で無茶に気づいて役目を辞退しただけ、ましだがな」 「……」 レッドは気づいていたのか、という目でグリーンを見つめた。 「おいおい!! ちょっと待ちなさい、キミたち!! 突然なにを言っているんだ!!」 勝手に二人で話を進めて、理事が黙っている訳が無かった。 「勝手に代わりを引き受けるだとか、必要なら試験を受けさせろだとか! ジムリーダー試験はまず受験資格を得ることが…!」 理事の言葉が言い終える事は無く、言葉の途中で大きな地鳴りがした。 その地鳴りのせいで、先程とはまた違ったざわめきに包まれた。 観戦者は狼狽えるだけだったが、レッドとグリーンは違っていた。 すぐに目を合わせ、頷き合った。 「おい! キミ!!」 理事を置いて、二人は颯爽と飛び出していく。 「私達も行くよ、チュカ!」 頷くピカチュウと視線を交わし、自分もまた二人を追って出ていく。 # # # 地鳴りは一度きりでは無く、何度も起こった。 ピカチュウの尾がぴくりぴくりとしている所を見ると、きっとポケモンだ。 その考えは的中して、外には大きなポケモンが立ち並んでいた。 ナッシー、フーディン、ウインディ、サイドン。 進化系である野性ポケモンがなんでまた。 「 立ち尽くしていると、サイドンがどしどしとこちらへ向かって来た。 ルナの目は、自然と細くなっていた。 「……」 サイドンが間近に迫っているというのに、ルナは表情一つ動かさず、その身もまた動かさなかった。 スゥッと一つ息を吸う音がした時、ピカチュウが尾でポケモンを切るように叩きつける。 その尾はかすかに銀色を帯びていた。 サイドンは、ピカチュウの攻撃で崩れ落ちた。 「わぁ、危なかったー」 一気に緩みきった顔になると、ほっと息を吐いた。 「ルナ!?」 いきなり声をかけられ、ビクリと肩を震わせる。 「レ、レッド……」 「なんでここにいるんだよ!」 「えと、見に来てたから……」 「え、そ、そうだったのか……じゃなくて、危ないだろ!」 試験直前、ルナの姿を発見出来ずに肩を落としていたから、レッドは見に来ていた事を知ると、嬉しくなった。 しかし、今はそれどころでは無い。 野性のポケモンが襲ってきたら危ないというのに。 「私は大丈夫です! ……グリーンは?」 「グリーン」という呼び捨てで呼んだ事に、レッドは顔をしかめた気がするが気のせいだろう。 あっちだ、と言って指差した方向を見ると、グリーンとナッシーが向かい合っていた。 「ムッ! 3つの頭部で相手をいかくするナッシーの戦闘習性!! ならば!」 フッと笑い、すっと右手を出した。 そこに、イエローがこちらへ走ってきた。 「レッドさん、体は…!?」 「もう動ける! 下がってろ、イエロー!!」 「……本当、だよね」 「本当だ、だから安心してくれ」 ぽん、とルナの頭を撫でる。 「あぅ」と小さく漏らして顔をあげると、優しく微笑むレッドがいて、自分もまた優しく、小さな向日葵のように微笑んだ。 二人はすっと真面目な顔になり、グリーンのポケモンのハッサムと、ナッシーの方を向いた。 ハッサムは両手を顔の真横に構えると、ナッシーは怖がるように体を震わせた。 「ナッシーがおそれているような…? これって一体!?」 「ハッサムの目玉のような両手が頭と並んで、まるで三つ首のように!! 逆にナッシーの戦闘意欲をうばってる!!」 「あのハッサムは…グリーンさんのストライク!?」 「ああ…その進化形態だ!!」 さすが幼なじみのポケモン、息がぴったりだ。 と思っていると、きゅっと服を掴まれる。 「? ……ルナ?」 「あ……その、なんでも無いです」 明らかに震えたような声だった。 「ルナさん、顔真っ青ですよ!?」 「え? 「どうしたんだよ、本当に」 レッドが詰め寄る。 すると、観念したのか「今の三つ首が、怖くて……」自白した。 普通の人なら、怖がりだなぁ、と笑い事になるが、虫が苦手なルナだから笑い事では無かった。 ストライクの時は、昔からの顔馴染みで、しかもポケモンの事を詳しく知らなかったルナは草タイプだと思っていた為に平気だったのだ。 しかし今はハッサムに進化して姿が変わり、そして三つ首に見えたら、それはもうキツい物があった。 「大丈夫だ、オレがついてるから」 そっと手を繋いでくれる。 その温もりだけで、なんだか平気になった気がするのは単純だろうか。 「残りはまとめて…、みねうち!!」 みねうち≠ヘ瀕死状態になるようなダメージを与えても、相手のHPを必ず1残す技だ。 という事は、このポケモン達を倒さずに、捕まえる気だろうか。 「よし!」 思った通り、グリーンはボールを構えて、ポケモン達に投げた。 するとポケモン達は容易に捕まった。 ルナやイエローも見習った方が良い位、ボールさばきが良かった。 「やった!!」とレッドとルナ、イエローが身を乗り出してガッツポーズをする。 それを見ていた観戦者、つまりマサラやトキワの人達はグリーンを褒め称えた。 「やったぜ、グリーン!!」 「さすがはオーキド博士の孫だ!!」 そのマサラの人の言葉を聞いて、理事が驚いたような声を出す。 「博士のお孫さん!?」 「ハイ…おまけに…」 「前回のリーグの準優勝者さ!」 「え 何かの資料を見ながら、おずおずと理事に話しかけた人の言葉をレッドが繋げる。 すると、理事はショックを受けたように汗をだらだらかいて、体を震わせた。 「あ…あの、グリーンくんとやら…」 「……」 ぱたぱたと手を動かしながら、急にへっぴり腰でグリーンに話しかける。 だが、グリーンは理事に背を向けて歩き出した。 そして、まっすぐ進んだ所にある、車の前で止まった。 乗用車というより、ワゴン車に近い感じだ。 その車の運転席の方の窓は開いていて、そこから音楽が流れていた。 それはラジオ音声である事を、ラジオ出演経験のあるルナは知っている。 「あら…この曲は…」 ナナミは聞いた事があるのか、頬に手を当てながら呟いた。 パチ、とグリーンによって音楽は止められた。 「ラジオから『ポケモンマーチ』が流れていた。この車は?」 「すみません…、私たち協会の車です…」 申し訳なさそうに言うと、周りの観戦者だったマサラやトキワの人達はポケモン協会に対して怒りを示した。 「野性ポケモンが好むこの曲…。これを聞いて集まってきたのね!!」 「へたをしたら大惨事だったぞ!」 「すみません、私たちとしたことが…」 だが、一度着いてしまった火はなかなか消える事は無い。 火のように燃え上がったマサラやトキワの人達は、謝られても納得出来ないようで、不平不満を投げ掛けた。 それを見て、ポケモン協会の人達を庇うように立ちはだかる人が一人。 ←|→ [ back ] |