ザザザザ、と木々を掻い潜り、走り続けるゴールド達。

というかそろそろ手を離して頂きたい。

「くそっ、クツの氷は溶かせたが、こいつらをどうにかしねぇと!!」

だったら手を離して頂きたい。切実に。

先程から顔が熱くて堪らない。

やはりどうしてもスキンシップだけは苦手だ。

手くらいなら良いはずなのだが、おかしい。

「頼むぜ、エーたろう!」

エイパムがアリアドスの周りをチョロチョロと動き回る。

するとデルビルが脇から出てくる。

「今だ!」

  かげぶんしん!!

エイパムの影分身≠ヘ見事に決まり、アリアドスとデルビルは互いの額をゴッチンコ。

非常に地味な攻撃だ。

「おっしゃ! やったぜ、エーたろう!」
「相変わらずセコいわね……」
「うるせぇ! シルバー! どこだ!」

呆れるリナを一蹴し、シルバーを探し回る。

そろそろ森から抜け出して、怒りの湖へと着く所だ。

確かにこっちの方へ仮面の男とシルバーが飛んでいったはずなのだが……。

そして、怒りの湖に出た時、二人はその光景に驚く事になる。

『!』

湖が凍っていたのだ。それも、ギャラドスが飛び出したまま。

「なんだ!? 湖が凍ってる!」
「ギャラドス達が飛び出したまま……どうして……?」
「シルバーは!? 仮面の男はどうなったんだ!」

嫌な予感が体を駆け回ってしょうがない。

リナは戸惑ったように手すりから身を乗り出しながら、視線をさ迷わせた。

すると、赤いギャラドスの尾を見つけてしまう。

その瞬間に絶望が支配したが、その尾を頭の方へと辿って視線を動かす。

そしてギャラドスの頭近くに、そのトレーナーとニューラが転がっていた。

『シルバー!!』

ゴールドも同じく見つけたらしく、同時に声を出した。

リナがシルバーに駆け寄ろうとして手すりから身を乗り出した時、頭上から氷のつぶてが落下してくる。

その落下した氷のつぶてはシルバーの付近の氷を貫き、そして  そして、シルバーは湖へと落ちていった。

『シルバー!!』

二人はシルバーの服が見え隠れする湖の穴へと駆け寄る。

「シルバァァ!!」
「シル、バー!」

そしてシルバーが完全に沈んでしまい、リナは氷上に膝を付き、近くの氷を殴った。

冷たかった。痛かった。

でもそれより、シルバーが湖に沈んだ事の方が冷たくて、痛い。

「っくしょおおお!!」

ゴールドは血が上ったように、仮面の男の方を向いた。

しかし、小さな氷のつぶてが頭上に沢山落ちてくる。

『次はおまえ達だ!』

急いでリナは神秘の守り≠張る。

ゴールドまでには届かず、ゴールドとエイパムはつぶてをまともに受けてしまう。

特に、エイパムはレベル的な問題なのか、ポケモンだからなのか、方膝をついた。

「エーたろう!!」

ぐったりしてしまうエイパムに駆け寄る。

『フッフッフッ。大口をたたいていた割には手応えのない…』
「く……」
『すぐにヤツの後をおわせてやる』

チラ、とシルバーが落ちていった水面の方を見て言う。

それに対して、ゴールドは拳を握った。

「なんだとお? さっきの勝負はついていたはずだぜ。なぜシルバーにとどめを刺した?」
『フン、簡単なことだ。邪魔者は消しておいたほうが都合が良い。それに』

ふわりとデリバードが浮く。恐らく、氷のつぶては、このデリバードの攻撃だろう。

『ヤツは私の元から逃げ出した。使えぬ者は処分して当然』

仮面の男が右手を流すように出しながらさらりと言う。

いけない! あの手の動きは攻撃の合図だ!

「てんめええぇ!
 他人のことを自分の利用価値で判断すんじゃねぇ!!」
「ゴールド!! 上!!!」

リナが声を張り上げた時、自分に影が射した事に気付き、頭上を振り返る。

「……!! な!?」

お願い、お願いだから、とデルビルに氷を溶かす火炎放射≠吐かせる。

だが  


うわあああああ!!


そんな努力なんて報われず、ゴールドに一際大きな氷が襲いかかってしまう。

そして、

ゴールドォォォオ!!!!

ゴールドまでもが湖に落ちていってしまった。

そんな、嘘だ、嘘だ、嘘だ!!!!

大きな穴が空いた湖に手を伸ばすが、何も掴めない。

ただ冷たさだけが体を支配した。

果たして水の冷たさか、ゴールドが沈んで血の気が引いたのか。

「くッ……ぜっっったい許さない!!!!」
『ククク、キサマも人に感情を左右されるようになったか。愚かな』
「愚かなのはどっちだァァァ!!」

リナの怒りに反映したように、サンダースからミサイル針≠ェ仮面の男へと放たれた。

しかし、デリバードに弾かれてしまう。

『キサマにとってもポケモンは道具だったのだろう?』
「はぁ!? アンタなんかと一緒にしないで!!」
『だったらそのマリルに対しての態度はなんだ?』
「え……」

予想外の言葉に、マリルを見ると、マリルはうつむいてしまった。

『キサマはマリルを邪魔者だと思っているのだろう? 利用価値のあるサンダースやレディアンだけを使っている。違うか?』

マリルはギュッと目を瞑った。

自分は、大好きなご主人にとって、使えない能無しだという事位、わかっているから。

だから他のポケモン、特にサンダースを優先的に使うのだと。

バトルで活躍しないから、撫でてもらう事もなかなかして貰えない。

自分は  役立たずだ。




「違う」




ご主人の口から、たった一言発せられた。




「マリルは」




目から涙が溢れる。

ああ、もしかしたら、と。




「道具なんかじゃない」




もしかしたら、自分はいても良い存在なのかもしれない。

自分は  




「大事な兄弟≠!!!!」




  幸福者だ。




『ほう。随分くだらない答えだな』
「ッ! マリル、ハイドロポンプ=I」

すっ、とまたあの手の動きをする。

頭上のつぶてに向かってすぐさまに口から、ハイドロポンプ≠吐き出す。

涙なんて流している場合では無い。

しかし、涙を流した事でまた一段と強くなれた。だから今のハイドロポンプ≠ヘ特別だ。

特別なだけあり、氷のつぶてが粉々に砕けた。

砕けた破片が氷を貫いていくが、なんとか避ける。

『流石特別枠=Bハイドロポンプ≠ナ砕いたか』
「その言葉言わないでくれる? 世界で最も嫌いな言葉だわ」

キツい視線を浴びせるが、仮面の男は『フッフッフッ』と笑うだけだった。

それから、また右手を流すように出した。

その攻撃の合図に、リナは身構えた。

『デリバード』
「! マリル!!」

マリルにハイドロポンプ≠命じる前に、マリルのお腹をデリバードに凍らされてしまった。

ハイドロポンプ≠ヘ、お腹に大量の水を蓄えてから思いきり勢いよく吐き出す技だ。

だからお腹を凍らされては攻撃出来ない。



「きゃ  



シルバーよりも、ゴールドよりも、大きな氷のつぶてだった。

マリルが封じられなかった時の事を考えてだろうか。

そして  


きゃあああああ!!!!



  天才はここで散ってしまった。



湖の中で、水に混じってしょっぱい何かが口に入ってきた。

薄れかける意識の中、マリルの泣き顔だけがはっきり見えた。

わかってる。優しくて泣き虫の君の事だから、責任を感じているんだ。

でも違う、違うんだ。

君は本当に良くやってくれた。好戦的だけど怖がりな君が。

それと、

今まで君の思いに気付けなくて御免。

多分甘えていたんだ、一番近くにいた兄弟≠セから。

それに、優しくて、いつも笑っている君だから、気付けなかった。

君は、




世界で一番大好きな妹≠セから。




だから  どうか泣かないで。




そこでリナは意識を手放した。

湖の中に混ざった涙は果たして誰のものだったのだろうか。




(伝えるには、)
(遅すぎたんだ)


20140113

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