ゴールドは、そのシルバーの変化に驚いたように声をかけた。

先刻の仮面の男の言葉が聞こえていなかったのだろうか。

しかしゴールドの声など耳も貸さず、シルバーは何も言わないので、ニューラも止まる事は無い。

またニューラがデリバードへと爪を振るうが、デリバードはその持っている袋で防いだ。

一体中に何が入っているか気になるが、今はそんな事は気にしていられない。

「こごえるかぜ!!」

吹雪≠ノは負けるが、それなりの威力を発せる凍える風≠放つ。

『デリバード!!』

男の一声で、デリバードが動く。

ニューラに向かうと思われた攻撃は別方向にいってしまった。

『標的はそいつ等だ!』
「ぐわあ!」「うあっ!」

デリバードの攻撃が、ゴールドとニョロトノ、リナとマリルに襲い掛かった。

しまった。少し、油断してしまった。

そのせいで、シルバーに隙が出来てしまう。

「な…!!」
『ばかめ! よそ見か!』
「ぐあ!!」

人間相手でもお構い無く、デリバードは拳を振るった。

『シルバー!!』

床に叩きつけられるシルバーに、二人は声を張り上げた。

そして横たわるシルバーの腕が男の足によって踏みつけられてしまう。

「ぐ…!!」
『5年ぶりか。アリゲイツを使い、私をつけ回っていたのは、やはりおまえだな、シルバー!?』

ゴールドは痛む肩を、リナは痛む腕を掴みながら二人の様子を見ていた。

前者は、二人は知り合いなのかと不思議がり、後者はやはりシルバーは、と思っていた。

『なにを思っている? 復讐か?』
「……さあな…」

シルバーは男に腕を踏みつけられながら、不敵な笑みを浮かべた。

「オイ、復讐だの5年ぶりだの…一体どういうことだ?」
『9年前、私は各地からトレーナー能力の高い子どもたちをさらっていたのさ。こいつはそのうちの1人だ』
「子どもをさらってただと!? なんでそんな…!」
『決まっている。私の手足として使うためだ』

その言葉を聞いて、リナは掴んでいた腕をギリ、と音がする位に力を強めた。

聞けば聞くほど  許せない!!

『かつてのロケット団は犯罪組織として優秀だった。それなのに壊滅したのはなぜか。それはコマ不足だったからだ。
 大計画にはコマが必要なのだ。先程のギャラドスたちの様に主人の言うがままに動くものが!』

先程のギャラドス達を思い出す。アレはそういう事だったのか。

しかし思い出すのは、中継点(アンテナ)であった赤いギャラドスの苦し気な表情、そして強制進化によっていきなり体形が変わってしまった事により、もがくように落ちてきたギャラドス達。

コマというのは多ければ良いという物ではない。望まぬ者が望まぬ所にいたって苦しいだけだ……!

『子どもはいい。なんでも子どものうちから教えるに限る。コイキングから扱ってこそのギャラドスであるようにな。ワハハハハハハハ!』

ゴールドは男に対して、怒りを覚えたように握った拳を震えさせた。

「コ…ノ…ヤロウ…!」

その時、男の意識がゴールドとリナにいった事を利用して、シルバーはボールを構えた。

しかし  

『妙なマネはしないことだ。シルバー!』

デリバードのキラリと先が尖った氷の両手が、ゴールドとリナに突き付けられる。

シルバーとリナは舌打ちをした。

自分だけなら、こんなに身を引く事無く、デリバードをなんとかするのに、と。

だがゴールドがいるのなら、それは出来ない。

ゴールドのせいにしている訳では無い。ただ、ゴールドを傷つけたく無いだけだ。

『ククク、やはりな。弱くなったものだ、シルバー。あのまま私の元に残っていれば、他人をかばうような「弱さ」に左右されぬ、完璧なトレーナーになれたものを』

そう言って足に力を込めた。

他人を庇うのが「弱さ」?

確かに、リナも思っていた。他人なんて関係無い。自分を一に考えるべきだと。

でも今は素直に違う、と断言出来る。

でなければ、今、リナはいないかもしれない。

この見知らぬ土地でほとんど無傷だったのはゴールドやシルバーに助けてもらったからだ。

最初は、もとはと言えば二人が天才である自分の足を引っ張っているのかと思っていた。

だがそれは勘違いだった。

二人がいたお陰で、自分には無かった発想が見出だせた。


  一人じゃなかった。


だから、シルバーは弱いんじゃない。そう言おうとした。


「それは違うぜ!!」


だが意外にも、すぐさま否定したのはゴールドだった。

『なに?』
「シルバーが弱いだと!? その目はフシ穴かよ。言いたくねーが、そいつは充分強えぜ!」
『……ほう』

そうだ、一番知っているのはシルバーと一戦を交えた事のあるゴールドだ。

バトルというのは、戦っている相手の事が不思議と分かってくるものだ。

「今まで何度もそいつの強さを見てきた、このオレが証人だ!
 シルバーは弱くなったんじゃねえ。トレーナーとして大切なものを失わなかっただけだ!」

ゴールドの本音を、シルバーは静かに聞いていた。

「そうね、わたしもそう思うわ。だって、シルバーは自分より先に他人を助けてたわ。それって、弱いヤツには出来ないわ」

尖った氷なんて気にもしないで、本音をぶちまける。

人を褒める事なんて、なかなかしないリナだから、ゴールドの方がびっくりしていたが、やがてニッと笑った。

「それよりも、ロケット団の残党ごときをあとにしてる、おまえのほうが弱えんじゃねえのか?」
『達者な口だな』

流石に沸点に達したのか、仮面の男が仮面越しにでもわかる位に睨みを利かせてきた。

「おっと足下がお留守だぜ!」
『むお!』

怒りで完全にゴールドに意識が向いた時、ゴールドはマグマラシの、リナはデルビルの炎でデリバードを攻撃した。

その瞬間、シルバーもすぐさま動く。

「ニューラ!!」

ニューラの爪によって男のマントが少し引き裂かれた。

『おのれ…こざかしい!!』

仮面の男とデリバードが身を引き、体勢を立て直した。

「へへへ…よーやく少しだけおまえの心の中、見えてきた気がするぜ。R団残党の黒幕が、この仮面だってこともわかった!」

なんだか嬉しそうに笑う。すっきりしたからか、シルバーを認めたらからか。

「おいシルバー、こいつの退治手伝わせろ!」

シルバーは驚いたようにゴールドを見つめた。

リナも視線だけで「自分も戦う」と訴えた。

もっとも、シルバーからの許可が無くたってリナは仮面の男とは戦うが。

「ことわっとくが、同情なんかじゃねえからな」
「…勝手にしろ」

いつもは「ジャマだ」だとか「引っ込んでいろ」と言うシルバーが、初めて了承した。

「こいつはポケモンや人を道具扱いしやがる! 人間としてもポケモントレーナーとしても許せねえ!!」

金色の瞳が、鋭く仮面の男を貫いた。

リナはゴールドの左側で、ゴールドとその右側にいるシルバーとの間隔だけ開けると、サンダースを出す。

そして三人は一斉に走り出した。




「行くぜ!!」




一人じゃない事が、こんなに心強いなんて、思いもしなかった  





走り出した
(同じ方向へ)
(歩み始めた)


20140112

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