『また、おまえらか…』

仮面の男の第一声は、本当に憎らしい物で、リナの目付きはより一層悪くなった。

「それはこっちのセリフだぜ。ウバメの森ではよくも! そして、どうしててめえがここにいる!?」

ゴールドは軽く身構えながら言う。

やはり、シルバーといれば仮面の男と接触する事が出来た。

だが、シルバーも仮面の男が出た事に驚いていたから、確証は無かったのだろう。

しかし結果オーライだから問題は無い。

『話す必要などない!』

スウ、と右手を横に流すように出した。

その瞬間に、霧がより濃くなったように感じるのは果たして気のせいか。

シルバーとリナは周りの霧を冷静に観察する。

ただ、冷静では無い人が一人。

「ちょうどいいぜ。あん時の決着、ここでつけてやる!」
「あせるな! この霧の中でへたに動くと相手の思うつぼだ!」
「そうよ、アンタの事だからきっと何かやらかすわ」
「うるせー! 立ち止まってられっかよ!!」

好戦的な瞳を輝かせ、仮面の男を真っ直ぐ見据えた。

駄目だ、これはもう言う事を聞かないだろう。

「ばくれつパンチ=I」

ニョロトノの拳が仮面の男の顔面へとふるわれた。

その際に、実に子気味の良い音が響く。

「よし! 手ごたえあり!! みたか! オレ様のパワーアップ!!」

ガッツポーズをして、得意気に笑ってみせる。

「だてに進化させて…、ん?」

だが良く見れば、ニョロトノの拳は凍り付いてしまっていた。

ニョロトノは痛そうに涙目だ。

「ああ!? ニョたろう!」
「馬鹿、だから冷静にいきなさいっての!」
「何もせずにはいられねーだろ!」

二人は喧嘩腰だが、流石に今喧嘩する訳は無く、霧から出てきた無傷な仮面の男の方を見た。

『フフフッ…、これで「パワーアップ」とは笑わせてくれる…』

平然と笑ってみせる仮面の男に、ゴールドは歯を噛み締めた。

「くそ…。にゃあろう!!」
「ゴールド! ダメよ!」

これ以上無闇に突っ込んでは危ない。

しかし伸ばした手は届かなかった。

「キングドラ!!たつまき=I」

シルバーがゴールドを突き飛ばし、大きなキングドラの特殊攻撃である竜巻≠飛ばす。

「ジャマすんな、シルバー! ここはオレが1対1であいつを倒してみせ…」
「落ちついてあたりをよく見ろ!」

その言葉を聞いて、おざなりに周りを見渡した。

すると、先程の竜巻≠フお陰で見やすくなった周辺で驚く物が目に入り、思わず身を引いてしまう。

「! 鋭い氷のトゲが一面に!!」
(やっと気付いた……)
「いつのまに…そうか! さっきの霧にまぎれて…」

先程霧を濃くしたのは、霧でカモフラージュする為だったのだ。

仮面の男はさりげなく≠アういう事をしてみせる。

だから、仮面の男と対峙するには、そのさりげなさ≠見抜く為の冷静な判断力が必要だ。

「うかつにふみこめば、串ざしになっていた」
「……」

鋭い氷に自分が串刺しになっているのを想像して、思わず生唾を飲む。

大体、それ位の危険が無ければ、リナはゴールドを止めない。

それ位気付いて欲しい物だ。

その時、こんな時にゴールドの腕に着けたポケギアからピピピと音がした。

画面にはお馴染みの名前が。

「! ウツギ博士!?」

すぐにピッ、と通話ボタンを押すと、「ゴールドくんかい!?」とウツギ博士号の焦った声がリナの耳にまで届く。

『よかった、やっと連絡が取れた! 例の金属粉の分析結果が出たんだ!! いいかい、ゴールドくん。よく聞くんだ』

例の金属粉、というのが分からないが、一応聞いておいた方が良いかもしれない。

リナはこっそり耳を澄ました。

『あの粉は、ジムリーダーがそれぞれ持っている、トレーナーバッジの結晶成分と一致した。ただし、どのトレーナーバッジかは不明だ。
 つまり、キミがウバメの森で戦った仮面の男はジムリーダーの一人である疑いが出てきた。ポケモンリーグ理事会では、先ほどから調査を始めたよ』

仮面の男はジムリーダーだったのか。

通りで、普通のトレーナーと比べ物にならない位のバトルセンスを持っていると思った。

『もし、本当にリーダーなら、相当な実力だ。キミのことだ、ケンカ気分で挑むのではないかと心配している!
 今後はもし出会うことがあっても絶対に関わらないこと! わかったかい、ゴールド…』

しかしその後の言葉を紡がれる事は無く、ゴールドはその電話を切った。

だって、もう必要の無い情報なのだから。

「おそかったぜ、博士」

チラ、と目の前の敵を見た。

「今、目の前にそいつがいるんだよ」

不敵に笑っているように見せる仮面に、ポニーテールのように結わえられた髪、黒いマント。

その仮面の男は、デリバードを携え、じり……と距離を徐々に縮めてくる。

残念ながらウツギ博士の予感は的中してしまった。

「どうやら…本当にとんでもねーやつを相手にしちまったみてーだな」
「忠告は何度もしたはずだ」
「しつこい位にね」
「……うるせえ!」

それは自分にも非があると思ったのか、ゴールドはしばらくの間を空けて言った。

『まったくジャマな連中どもだ。私のまわりをうるさくかぎ回る…』

また、右手を横に流すように出す。

あれは男の攻撃の合図だ。

『ふぶき!!』

攻撃のタイミングが分かっていたから、リナは三人を包む神秘の守り≠レディアンに命じた。

そのお陰で、冷たい冷風に晒される事は無かった。

だが、周りの木々や草達が吹雪≠ノよって凍ってしまう。

「木が凍っていく!? さっきのトゲもこの冷気で…!」
「そうでしょうね……」

ゴールドに相槌を打ちながらも、心の中で舌打ちをする。

デリバードというポケモンは通常プレゼント≠オか覚えられない癖に、と。

だから野生のポケモンのイメージのせいか、デリバードが強いというイメージがしないのだ。

しかしこの男のデリバードはまさしくチートポケモン。

どういう育て方をしたらそうなるんだと問いただしたい位に憎らしかった。

『さあ…誰からかたづけようか。それとも、3人まとめていくか!?』

嘗められた物だと、目を細めた。

『あの時のように逃げ出してもいいんだぞ! …リナシルバー!!』

その言葉に、リナは身構えた。

だが、その前にシルバーが動いた。

「ニューラ!!」

ニューラはシルバーにとって右肩のような物であり、一番素早さに長けていた。

そのニューラがデリバードに向かって爪を振るうが、デリバードは軽々避けてみせ、爪はそのまま地面を攻撃した。

「シルバー!?」

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