「行くぞ、ニューラ」

ゴールドから背を向け、そして何かに背を向けるように歩みを進めた。

「ゴールド、決着はついた。これで気が済んだだろう。もうオレを追ってくるな!」

ニューラとアリゲイツ以外をボールに収めながら冷たく言い放つ。

しばらく歩みを進め、ゴールドが何か言おうとした時、ふと足を止めた。

そしてくるっと振り返った。

「…ゴールド、おまえのガンバリにめんじて、さっきの質問に答えてやる」

そう言ってポケモン図鑑のボタンを押し、何かが画面から出てくる。

「そいつは!!」

それは先程見たスズの塔内部にあったホウオウの石像の映像だった。

石像付近でなにかしていると思ったが、まさか映像の記録とは。

「エンジュの事件は『ホウオウ』を呼びこもうとするロケット団の計画のひとつだった」
「『呼びこむ』!?」
「このエンジュシティはホウオウ伝説の残る地、そしてスズの塔とは、伝説のとりポケモンホウオウ≠ェ降り立つ場所だったという」

そこで、リナはなにかが頭にちらついた。

ホウオウ……鳥ポケモン……エンジュシティ……。

確実にその三つのヒントで一つの道筋が見えてくる。多分。

「やつらはスズの塔を破壊することでホウオウの帰巣本能に訴えることができないか、という実験を行っていたのだ」
「帰巣…!? 巣に戻ってくることか!? つまり『巣』であるスズの塔に戻るかもしれねーっつー『仮説』の『実験』なわけだな!!」
「そして『オレの目的は何か』という質問に答えるなら、それは『やつらをツブすこと』ということになる」

その大きな目的を、今までシルバーは一人で抱え込んでいたのか。

リナはこれまでならそれは当たり前で、それが正解だと思っていた。しかし、今はどうしてか正解だとは到底思えなかった。

「さらにオレ自身、ホウオウを追うべき使命を持っている。その使命をはたすためなら、オレは手段をえらばない…。たとえ非合法と責められようとも…」

非合法。それは図鑑、そしてゴールドがこうして追う理由になったワニノコの盗難。

アリゲイツがそれを思い出してか、チラ、とマグマラシの方を一瞬だけ向いた。

「急ぐぞ。ニューラ! アリゲイツ!!」

シルバーはニューラとアリゲイツを連れて背を向け、どこかへと走り出してしまった。

ぽつんと残されたのはゴールドとリナ、それとそのポケモン達だった。

置いていかれたゴールドは果たしてどうするのだろうかと顔を窺うと、空を仰いでいた。

「ホウオウ…、ロケット団…。たとえヤツがなにを相手にしていようと、1人で戦いぬかなきゃなんねー理由はねえんじゃねーかな?」
「そうね。わたしも以前まではそうしていたけど、今はなんでか……それは悲しい事だと、思ってきたわ」

ポツリと呟くように言った彼の言葉はきっと自分に対して言った訳ではない。

わかっていたが、どうしても誰かに言わなければ気が済まなかった。自分の気持ちの変化を。

「へぇ、おめえにしては珍しい意見だな」
「まぁね。誰かさんのせいでかしらね」

皮肉を言ったつもりだが、ゴールドにしたら誉められた感じしかしなかった。

「それとワニノコ…いやアリゲイツも帰ってきてねえしな、なあ、バクたろう!」

マグマラシにそう言えば、マグマラシは嬉しそうにこくりと頷いた。

そして二人とそのポケモン達は走り出した。シルバーを追って。

「待てよ! 戦うぜ! オレもいっしょにな!!」


# # #



同時刻、ある黄色の少女はトキワの森で怪我をしていた所を手当てしてなつかれたピカチュウを撫でながら呟いた。

「リュウさん……」

リュウさん、というのは自分より二つ年上で黒いパーカーを好んで着ている少年だ。

そもそもこのピカチュウと会ったのもリュウのおかげだった。

リュウのピカチュウ(ヒカリ)と仲良くなったピカチュウが森で怪我をしたというので呼ばれたのだ。

今にして思えば、ポケモンセンターに行かずに自分に手当てさせたのは、ピカチュウを自分に持たせる為だったように思う。

相変わらず不器用な優しさにときめいてしまう。

だが、そのリュウがこの前ピカチュウの様子を見に来て以来、姿を表さないのだ。

その時の様子が、酷く真剣な感じで何も言えなかったのを覚えている。

彼はまたなにかを背負っているのだろうか。

一人で背負って欲しく無いが、リュウは普段自分に気を使ってか、何も言ってはくれない。

それが凄く、切ない。



黄色の少女の名はイエローと言った。

彼女は一年前、四天王事件にてチャンピオンであるワタルを倒したトレーナーだ。

捕獲は苦手、ポケモンを傷付けるのも苦手。

だがこのカントーを守りたいが為に、その力を存分に引き出した。

現在、12歳。

麦わら帽子を被ってしまえば少年のフリが出来る。

もう必要は無いはずなのだが、訳あってまだはずせないでいる。

しばらく経った時、彼女の叔父が来て、一年前にスオウ島で見た大きな鳥の事を調べて報告しに来てくれた。

しかし叔父では手に負えないらしく、実力のあるトレーナーが必要らしい。

イエローは自分は駄目だと言った。一年前に事件を解決したと言えども、あの時は夢中で、ポケモン達や自分に付き添ってくれた少女や助けてくれた人達のおかげだったと思っているから。

そこでイエローはある人達を呼ぶ為、麦わら帽子を身に付け、隣町のマサラタウンに出掛けた。

その人達はいつもの所で自主トレをしているはずだ。とはいえ、一人はその付き添いだが。

やはり予想通り、二人はそこにいた。



「いくぞ! フッシー!!」



その声は暖かみがあり、フシギバナにも、イエローにも届きやすい声だった。

つるのムチ!!

フシギバナの蔓は、鞭のようにしなり、自分達よりも大きな岩を砕いて見せた。

それを見て、イエローは感嘆の声を漏らした。

「すごいや」

彼は本当に凄い。

自分を助けてくれたり、ポケモンリーグで優勝したり  

イエローにとって彼は憧れの存在だった。

「戻れ! フッシー!」

もう自主トレは終わったのか、フシギバナをボールに戻しキャッチしようとした。

しかし  

「あ…」

スカ、とボールは手中に収まる事無く、地に落ちた。

それを見たイエローは、酷く驚いた。今までそんな事は無かったから。

すぐさま一人の少女と白衣を着た女の人が彼に近付いた。


「レッド……!」


向日葵のような髪を揺らし、フシギバナのボールを拾って、レッドの側に駆けた。

その顔は真っ青になっていて、酷く心配した様子だ。

「おっかしいなー」

ははは、と笑いながら右手をプラプラさせた。

「レッド、これ……」
「ああ、ありがとな! ……そんな心配しなくていいからな、ルナ」
「……うん」

そうレッドが言う物の、浮かない顔をする少女  ルナ。

レッドが心配したルナの顔を見たくないと思いながら頭を撫でると、微かに微笑んでくれた。

それでも彼女にぴったりな向日葵の笑顔としては少し萎れていた。

「やっぱり手に力が入らないの? レッドくん」
「ほんの少しだけだけど…。…でも、最近強くしびれることが多くなってきてる気がする」
「その部分って……」
「ああ、両手首と両足首…。1年前、あのカンナの『氷の輪』をうけた部分が!」


一人で背負わないで
(頼ってよ、もっと)


140111

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