「2匹じゃ足りねーんじゃねえか?」
「そのようだな」

シルバーがにやり、と笑った。

どうやら二匹をピンチにまで追いやる事が出来たようだ。

「リングマ!みだれひっかき!!」
「ウーたろう、ものまね=I」

あの山で強い爪の威力を見せ付けたリングマがその爪を素早くクロスさせたり上下に動かしたりと乱れた攻撃をする。

この攻撃は一撃の威力自体は低いが、連続攻撃の為に当たった分だけ威力は高くなる。

更に、乱れた攻撃の為に、技の位置がなかなか掴めないから避けにくい。

それに対してウソッキーはものまね=B

確かに通常技よりも、相手の動きに合わせて攻撃した方が良いかもしれないが、

「しょせんはものまね≠セ。どこまでもつかな」

そう、所詮は相手の真似事。

しかもウソッキーはリングマのような鋭い爪は持っていない。

圧倒的不利だ。

それに、ウソッキーはもう目で見ても明らかな位に体力を削られている。

ゴールドが図鑑を見ながら焦った顔をしている事でも分かるように。

「とどめだ、キングドラ!」
「ああっ!! ウーたろう!」

新たに出てきたキングドラの水攻撃でウソッキーは倒れた。

ウソッキーは見た目は木で、一見草タイプに見えるのだが、意外にも意外。岩タイプだ。

だからキングドラの水攻撃は効果はバツグンだった。

「そ、そいつは…?」
「フフ…、先程のニョロトノの通信交換。ついでにオレのシードラもキングドラに進化させてもらった」

そう言って、シルバーは今までに見た事が無い位に楽しそうにしていた。

やはり男というのは、こういう好敵手(ライバル)同士で戦うと燃えるのだろう。

(なんだ、楽しそうに笑えるじゃん)

今まで、無愛想にしていて、銀色の瞳をギラギラと光らせている姿しか見ていなかったからそんな事を思う。

だからだろうか。そんな彼の方が、良いと思ってしまうのは。

「まだまだあ! 次だ!」
「のぞむところ!」

二人が新たなボールを出し、構えた  その時だった。

ピル…ピルルルルル。

『!!』

丁度二人の境に落ちていたポケギア  恐らくシルバーのだろう  がけたたましく鳴り響いた。

どうやら電話がかかってきたようだった。

『シルバー、次の指令だ。「いかりの湖」に向かえ』

声は低く、声変わりが修了した頃の男性の声だった。

『そこでポケモンになんらかの動きがあった模様。まずは現場での確認を要請する! 以上、報告を待つ』

プツ、と電話が切れる。

途端にシーン、と静まり帰る。先程までバトルをしていて騒がしかったから尚の事。

「なんなんだ今のは!?」
「……」

ゴールドがチラ、とシルバーの様子を窺いながら尋ねるがシルバーは答えずにポケットに手を突っ込んだ。

そして一つのボールを出した。

「ゴールド、悪いがこのバトル、一気にかたをつけさせてもらう!」
(ハイパーボール……!?)

ボールというのは身分を表す。

モンスターボールなら普通のトレーナー、スーパーボールならジムリーダー。そしてハイパーボールなら  

(まさか……ねぇ)

ハイパーボールの事を踏まえて先程のポケギアの相手を考えると……信じられ無かった。

そんな考えは、ボールから出てきたポケモンの鳴き声で吹っ飛んでしまった。

「バンギラス!」

バンギラスは、鎧ポケモンと呼ばれていて、どんな攻撃にもびくともしない体を持っている。

ゴールドの相手としては少しハードルが高いかもしれない。

「くそ! あんなやつ持ってたのか! エーたろう!」
(バカ……バンギラスにそんな小さいノーマルタイプが通用する訳が無いじゃない)

海よりも深い溜め息を吐いていると、やはりエイパムには辛い物があるのか、次々と放たれる攻撃に対応出来ないでいた。

「うわああ!」

しかもシルバーの方を向くと、一切シルバーは身動ぎ一つしていなかった。

「オイ、シルバー! さっきと戦い方が全然ちが…、うあっ!」
「悪いがそいつはレベルが高すぎて、暴れだすとオレの手にも負えない」
「なにィ!?」

やはり。

という事は、貰ったポケモンという事だ。それは確実になった。

でなければ今まで育てる事なんて出来ないのだから。

「だがそろそろ…」

ボソ、と誰に言うでも無い声。ご丁寧にリナは聞き取ってしまった。

「そいつの得意わざが出る頃かも知れない」

くるとバンギラスとゴールドから背を向けたシルバー。

嫌な予感がして、リナはすぐさまバンギラスから離れた。


「そう、すなあらし≠ェ!」


予想通り、砂嵐≠ェエイパムどころかゴールドまで襲う。

いや、エイパムだけじゃない。表に出していたポケモンは全てだ。

「エーたろう! バクたろう! キマたろう! ウーたろう!」

二匹だけが無事にボールの中に入っていた。

ゴールドはその内の一匹を出す。

「くそ! ニョたろう、みずでっぽう=I」

ニョロトノは水タイプ、そしてバンギラスは地面タイプ。相性は有利だった。

だが、それをシルバーが見越していない訳が無かった。

「ムダだ」

後ろを向いたまま、ボールを放つ。

「なにィ!?」

そのボールにはヤミカラスが入っていて、ニョロトノの水鉄砲≠ェ素早い動きでその黒衣を纏ったような翼で防がれてしまった。

そしてその隙を狙い、バンギラスは砂嵐≠起こす。

勿論レベルが桁違いなのだから、いくら二段進化したニョロトノでもまともに受けたら、なんの抵抗も出来なかった。

「ニョたろう!」

その時だった。バンギラスの目が見開かれたのは。

その際に、微かに「みし!」という音がした。

しかしそれがどうしてなのかまでは、リナがいる場所の角度では把握出来なかった。

バンギラスが動かずに静かになると、ゴールドは舌を出して様子を窺い、シルバーは不思議そうに後ろに目を向けた。

「…なに!?」

すると、バンギラスはよろり、とゆっくり体のバランスを崩していく。

「バンギラスが! バカな!! 一体どういうことだ!!」

シルバーは後ろを向き、バンギラスの様子を一瞥する。

よくみれば、バンギラスの脇腹辺りに小さいなにかが刺さるように埋まっていた。

「トゲピー! いつの間に!?」
「へへ、うまくいったぜ。どーだ、ニョたろうをおとりに使ったトゲたろうのすてみタックル!!」

タックルに見えないのはご愛嬌という事だろう。

「…って、  !! ちょっとタンマ! ふんばれ、トゲたろう!」

しかしトゲピーは限界だったようで、ポロと脇腹から落っこち、二匹は一緒に地に体を預けてしまった。

「あちゃ  

ゴールドはやっちまったとばかりに頭を抱えたが、シルバーとリナは驚きでいっぱいだった。

あの小さなベビーポケモンが、あの大きなヘビーポケモンを倒したのだ。

「バンギラスが倒された…?」
「しかもトゲピーに……ね」

若干引き気味に言うと、シルバーは無言でトゲピーとバンギラスを順に見た。

「バクたろう、キマたろう、ウーたろう。エーだろう、ニョだろう、トゲたろう…。6匹とも戦闘不能…」

ゴールドのポケモン達は全員傷を負い、ボロボロになっていた。

「負けたぜ、ちくしょー! シルバー、おまえの勝ちだ!!」

ゴロン、と荒れ地に横になり負けを認めた。

だが表情は悔しそうではなく、非常に楽しそうな笑顔だった。

「でも、おまえのポケモンを6匹目まで引っ張り出してやったぜ! ザマーミロ!!」

本当の嬉しそうに言うものだから、シルバーもリナも何も言えなかった。

「ほらよ、シルバー!」

ポケギアがシルバーの手中に飛んできて、収まる。

「次はぜってー勝つ!!」

相変わらず寝転んだまま、シルバーに親指を立ててみせた。

純粋に好敵手とのバトルを楽しみ、闘争心に燃えているようだ。

呑気にシルバーのニューラによっ、と挨拶をしているゴールドを見ながらシルバーはまさか、と思っていた。

(まさかこいつ…)
「アイツ、バンギラスの砂嵐≠フ中、アンタが落としたポケギアを器用に拾ってたわ」
「……」
「じゃなきゃ、アンタのポケギアはアンタのバンギラスの砂嵐≠ナグチャグチャになってたでしょうね」

シルバーは背を向けていたから気付かなかっただろうが、リナはずっとその様子を見ていた。

だからその間に隙が出来、エイパム達が砂嵐≠ノ完全に巻き込まれてしまったのだ。

それを聞いたシルバーはゴールドを見ながら、もしポケギアを拾っている時間を技の指示に使っていたらこのバトルは……と考えてしまう。

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