「わたしは放ったらかしな訳ね」 はぁ、と溜め息混じりに言うと、ゴールドは「しょうがねぇだろ?」と言ってくる。 何がしょうがねぇ、だ。このタイミングでバトルをすると決めた張本人じゃないか。 「じゃあ、このへんでいいか。どーせこんだけ壊れまくってるしな」 「アンタね……復興させる町の奴等の事考えてあげなさいよ」 「いいだろ、別に。いちいち細かい事気にすんなよ!」 「はいはい」 三年前辺りに、オーキドの博士の研究所をルナが復興を手伝うために出掛けていた事を思い出してつい細かい事を言ってしまった。 別にこの町の奴等の事など気にはしていないが。 「さてと」 ゴールドはポケモンを全てボールに収めた。 そしてキョロキョロと辺りを見渡す。 すると、望んでいた物を見つけたのか、口許を綻ばせた。 「ラッキー! ポケモンセンターの非常電源が動いてら。まずオレたちのポケモンを回復させてと…」 六個のボールを回復装置の上に置く。 「よし、使用ポケモンは各自6匹。入れ替え制でいこうぜ」 回復装置を起動させれば、微かな光を帯び、回復していく。 ゴールドが終わるとシルバーが5個、回復装置の上に置いた。 「あれ? シルバー、おまえポケモン5匹しか持ってないのかよ」 「1コはハンデだ。もっとも、実際バトルに使うのは2匹で充分だろうがな」 「言ってくれるじゃねーか」 ムカー、としたゴールドは笑みを浮かべながらも筋を立てていた。 リナは、はたしてゴールドがシルバーに勝てるのか、と思う。 冷静な判断の出来るシルバーに対して、あの無鉄砲なゴールドが勝つなんて想像出来なかった。 だがその無鉄砲さは、時に強力な武器となり得る。 非常に分からないバトルだった。 「よっしゃあ、いくぜ!」 がっ、とボールを持ったお互いの腕をクロスさせる。 「勝負だ!!」 二人が同時にボールを投げて、煙が発生した。 さて、とリナは二人の勝負を見ながらも、暇だなぁと回復装置で五匹のポケモンを回復させる。 直にそれも終わり、頬杖をつきながら暇を全身で感じていた。 いつもはこんな所で暇をもて余さず、一心に道を突き進むのだが、もはやそうも言っていられない。 ロケット団、それから 本来なら自力でどうにかする場面だが、いかんせん場が悪い。 リナはジョウトの事を知らないし、上手く動く事は出来ない。 動いても恐らくジョウトという名のチェス盤を知りつくす仮面の男は、先に効率よく動き、リナは そんな分の悪い勝負、誰がするものか。 だから、リナはシルバーに頼る。否、利用すると言った方が適当か。 ただ、そうすると、必然的にシルバーのストーカーとなり、この無駄な道草(ゴールドとの勝負)にも付き合わないといけなくなるのだが。 それはちょっと怠い物だった。 「…と見せかけて、ウーたろう!」 あちらではまだ白熱した戦いが広げられていた。 なんだかこうやって律儀に待っている自分が情けなくなってくる。 仕方なく、二人から少しだけ離れて、エンジュの悲惨な震災痕を眺めて歩いた。 足場が非常に悪いどころか、いちいちぴょんぴょんと跳ねなければ足場が無い状態だ。 その時、遠くの方から微かな鳴き声がした。 つい気になって足をそちらに向けたのは、その鳴き声が嘆きのように感じたからかもしれない。 「誰かいるの?」 よく注意し、目を凝らし、耳を澄ませ、気配を辿る。 マリルもリナの肩で耳を動かしている。 鳴き声の方へと歩いていくと、気配が大きくなっていく。 「! ……ヘルガー?」 その名を呼べば、ヘルガーはピクリと反応し、リナに助けを乞うように近付いてきた。 「ココに何かあるの?」 ヘルガーがいた場所、そしてヘルガーが守るように立っていた場所を視線で示しながら問うと、ヘルガーが長い尾でぴしぴしと地を叩いた。 最初は訳が分からずに首を捻ったが、よく見ればそこには瓦礫から覗いた短い尻尾が。 「まさか、デルビルがココに?」 そう言うと、ヘルガーが首を勢いよく縦に振る。 やはり。ヘルガーと同系色だが、短い尻尾を持っているから、その進化前だと踏んだのだ。 確かによく耳を澄ましてみればデルビルのか細い鳴き声が微かだが聞こえてくる。 恐らくエンジュシティに住まうポケモンらしいが、逃げ遅れてしまったらしい。 「待ってなさい。今助けるから」 いつも捲っている袖を改めて捲り、瓦礫に近付く。 酷くヘルガーが心配そうにリナの顔を覗き込んできた。 「心配しないでよ。このわたしが助けるって言ってるんだから」 腕を組んで得意気に言うが、それでもヘルガーの心配は無くならないらしく、顔を俯かせる。 それに対して溜め息を吐きながらリナはヘルガーの頭に手を乗せた。 「大丈夫よ。兄弟でしょ? 信じてやんなさいよ」 デルビルのいる方向を親指で差しながら、力強い口調で言うと、ヘルガーは安心したのか表情を柔らかくして頷いた。 「ん、オッケー。……ヴェルテ」 ボールからモココを出し すると涙目で離れた。少し可哀想だが、こうでもしないとなかなか離れてくれないのだ。 「怪力=I」 ぐぐぐ、と腕に力を入れ、そのままの勢いで瓦礫を持ち上げた。 そしてそれを脇にずらすと、デルビルが瓦礫から解放される。 「よくやったわ、ヴェルテ」 モココが誉めて誉めてと抱き付く前に、頭を撫でてやる。 するとモココは驚きつつも、凄く嬉しそうだった。 リナはそんなモココをボールに戻してデルビルに近付いた。 「さぁ、もう大丈夫よ」 ニコッと笑えば、途端に気が抜けたのか、デルビルは涙を流してリナに寄りかかってくる。 「ヘルガー。助けたわよ」 デルビルを抱きかかえてみせると、ヘルガーは感極まったようにデルビルに抱き着いた。 「良かったわね……」 本当に小さく、呟く。 なんだか自分と姉を照らし合わせてしまってしょうがない。 別に状況が似ている訳でも無いのに。 ふと、デルビルとヘルガーが相談しているように顔を合わせ、ヘルガーが頷けばデルビルがこちらに近付いてきた。 「ん? どうしたの?」 素直に疑問を溢せば、デルビルはリナの腰のボールを見ながら吠えた。 「……は? アンタ正気?」 天才が故に察しが良い。デルビルの意図に気付いてそう言うと、デルビルは強く頷いた。 「ヘルガーはどうすんのよ」 そんな事問いたってあっちは人間の言語を話せる訳では無い。 ただ強い瞳を向けられているだけだった。 「……わかったわ」 しょうがないとばかりに息を吐く。 「アンタを仲間にするわ」 笑ったのはデルビルだけでは無かった。 # # # デルビルを仲間にし、いかん肝心の二人の勝負はどうなった、と元の場所に向かう。 ちなみに、デルビルはモンスターボールに入れ、ヘルガーは恐らく自分の故郷へと帰っていった。 これでようやくリナも六匹集まった事になる。 ただ、まだ発展途上な部分はある。 モココにはもう一段階進化系があるし、デルビルもヘルガーへと進化出来る。 そしてなにより、念願の炎ポケモンを捕まえられたのは良いのだが、やはり3/6が電気タイプというのはキツい物がある。 ロケット団はともかくとして、仮面の男に対抗するには戦力が不足している。 しかし不足しているからって負ける気なんてサラサラ無いし、そんな逆行は跳ね返してみせるというのが天才少女リナだ。 とにかく指示をする側は完璧なのだから、指示をされる側の徹底とレベルを上げる事。 これを今後意識すれば リナは自分の立てた作戦に一人笑みを浮かべた。 どうせならあの二人の内誰かと戦おうかと考えた時、リナは見事に元の場所に戻ってきた。 どうやら二人の勝負はまだ続いてるようだ。 ←|→ [ back ] |