そのリナがロケット団達を引き付けている間に、シルバーが巨大イノムーの相手をしていた。 巨大イノムーが歩く度に周りの岩が砕け、地面を揺るがす。 それに対し、シルバーがヤミカラスに掴まり、逃げまとう。 「どうだ!とっしん≠ニいわくだき=I 地盤を町ごと崩すこのパワー!! このまま地面を崩し続けるぞ!! 足場を失い、とりポケモン1匹で逃げまわるしかあるまい!」 男は、シルバーが何も出来ないのだと思い、高笑いした。 しかし、それは勘違いであった。 「……。そいつはどうかな? 崩れた地盤と、こいつの冷気によって氷となった空気中の水分…」 ヤミカラスに掴まりながら、冷静な判断をその口から吐き出す。 相変わらず巨大イノムーはこちらの方に迫っていた。 そう、それでいい。そのまま 「そいつを利用させてもらうぜ!!」 図鑑を出し、あのポケモンをまるで呼び寄せたかのように側に置く。 「うずしお!!」 巨大イノムーの回りに、先程三人をスズの塔から救った技が襲いかかった。 タイプを氷≠ニ地面≠ニ2つ持つイノムーは、水タイプを苦手としていた。 その技を繰り出したポケモンといえば、勿論ゴールドのニョロトノである。 「なにぃ! ばかな!」 「水と土砂による地盤の液状化現象…。土石流にのみこまれるがいい!」 ヤミカラスから飛び降りながら、シルバーは不敵に笑った。 巨大イノムーは、もはや戦力とはなっていなかった。 男は当然焦り始めた。こうも容易く巨大イノムーが敗れるとは思わなかったのだ。 「くそっ。オイ、おまえたち、帽子のガキと目付きの悪いガキは後回しにしてこちらに…」 くるりと振り返ると、男はより一層驚かされる事になった。 「悪ィな、こっちは全部オレ達がのしちまった」 「数ばっか多くてレベルはてんで弱いわね」 「な、なに そこにはすす汚れたゴールドと、無駄に綺麗な状態のリナ。 ポケモン達は一体たりとも残ってはいなかった。 「言われたとおり片づけてやったぜ、シルバー!」 「このわたしまで手伝ってあげたんだから感謝しなさいよ」 片づけてやった、とか、手伝ってあげた、とかとことん上からな二人だった。 「さあ、次は誰が相手だ!?」 ゴールドが挑発気味にそういうと、男は悔しそうに顔を歪めた。 「うぬ…。ガキめ…、勝ったつもりか」 その言葉に、リナが「現にわたし達が優勢じゃない」とか呟くが、そんなのは男への挑発にしかならない。 いや、もしかしたらわざと怒りを煽っているのかもしれないが。 「総員! 残りの全ポケモンを用意!!」 「待て! 深追いをするな」 「!」 「ここは引くのだ。すでにスズの塔は攻撃した。ホウオウの本能…。我われの仮説が正しければすでに目的は果たされたも同然」 怒りを煽られ、少々熱くなった男に、側にいた女が落ち着いた様子で言った。 三人は女の口から出たホウオウ≠ニいう言葉に反応した。 「ぬぅ〜〜」 女の冷静な言葉に、納得しつつも、火照ってしまった心はなかなか沈まずに男は悔しそうに歯を食い縛った。 「総員退避!!」 男が片手を挙げれば、それを合図にロケット団達は一斉に退避していった。 そんなロケット団に対してゴールドは「ああっ、待てコラ!」と叫んだが、もう時すでに遅く、ロケット団は姿を消していた。 「くっそー、いつもいつも!!」 拳を握り、苛々とするゴールド。 確かにこうもいちいちお騒がせな事をしておいて、素早く逃げられたら苛つくかも知れない。 というかリナ自身も段々ロケット団の存在が疎ましくなってきた。 随分前からいる事を知っているから尚更だ。 「オイ」 スズの塔の残骸を見ているシルバーに、ゴールドが図鑑を突き出す。 「返せよ、オレのニョたろう。通信進化って、要するに交換じゃねーか。どーりで言うこときかないハズだぜ」 「今頃気付いたの?」 「うるせぇ! んなの気付かねぇよ!」 「……。少しは力をつけたようだな」 リナは驚いた。何に驚いたかというと、確かにゴールドの鈍さもだが、シルバーがゴールドを褒めた事である。 どうやらシルバーは秘密主義ではあるが、それなりに正直な所があるらしい。 「へへへ、見たかオレの実力。そだてやの特訓はダテじゃないぜ!」 親指を立て、舌舐めずりをしてシルバーからニョロトノを受け取るゴールド。 するとニョロトノが出てきて、途端に嬉しそうにぴょこんとゴールドに寄り付く。 それを安心したようにニョロトノの頭を撫でる。 「よぉ! お帰り、ニョたろう」 目を閉じて気持ち良さそうにするニョロトノを見て、マリルが羨ましくなったのか、リナにぴたっとくっつく。 甘やかし過ぎるのもアレだと思ったが、しょうがなしに頭を撫でてやる。 そういう所が自分は甘いなぁと思う。 「ところでシルバー」 いきなり真剣で、低めの声がして、思わずリナもシルバーを見る。 「『ホウオウ』ってなんなんだ?」 ピク、と微かにシルバーが反応する。 「スズの塔内で見つけた彫像に書いてあった名前、そしてロケット団の女も口にしてた。オレは見逃さなかったぜ。『ホウオウ』という言葉に反応していたおまえのことを…な!」 へぇ、と感心する。 なぜならゴールドがシルバーの可笑しな様子に気付いていたからだ。 先程シルバーが「関わるな」と言った時は、自分達を巻き込まない為だとは気付かなかったのに、と。 まぁ、そちらは見ていても非常に分かりにくく、反応していた事は見ていれば分かるような事だからしょうがないが。 「おめえ…一体何者なんだ?」 ゴールドはきっと一直線に突き進むような、素直で熱い奴だ。 だから、ストレートにしか言えない。 逆にシルバーはきっと曲がりくねった場所を進むような、不器用な奴だ。 だから、ゴールドの問いに何も言えない。 「何か知ってて来たんだろ。おまえの目的…、いったいなんなんだよ」 やれやれと頭を掻き、溜め息を吐く。 そして自分から聞いといて「まぁ、それはいいや」とその問いを横に置いた。 「でもこれくらいは答えろよ」 立ち上がったゴールドの靴が、砂を蹴って音を鳴らす。 「おまえはいつも『目的』『目的』って、そんなふうに『任務』みてえに戦ってばっかでおまえ…」 夕陽に輝く金の瞳が、シルバーを貫く。 「今まで本当に楽しんでポケモンバトルをしたことあんのかよ?」 「なに?」 今までだんまりだったシルバーが、流石にその一言には黙っていられず口を開いた。 ゴールドが図鑑を持つ。 「そこでだ。お互いポケモン図鑑とウツギ博士のポケモンを持つ者同士…。フェアに近い条件だ。一度本気で手合わせしてみてえと思わねえか? どうだ? シルバー!!」 「挑戦状か…。おもしろい!」 シルバーも自分の図鑑を構えてみせる。 それを見て、ゴールドが満足そうに笑った。 側にいたリナはその様子を見ていて、自分が今までに無かった感情が沸き上がるのを感じた。 共に戦うという事 (仲間や好敵手が) (羨ましいなんて) 140105 ←|→ [ back ] |