無数の人影の中から、一つの人影が前へと出てきて靴で地を鳴らした。

「町全員が避難したと思っていたが、スズの塔に小僧が2人と小娘が1人残っていたか」

その男は、三人共よく知っているロゴを胸に携えていた。

そのロゴは  「R」。

「ロケット団!?」

ロケット団という集団は、悪事を働く集団なのだが、それ自体はリナにとってはどうだって良い事だった。

大半の人がロケット団のする事を許せない、とか、酷いだとか思うのだろうがリナとしては「そういう奴等がいるのは当たり前の事で、善がいれば悪があり、黒があれば白がある」という認識しか無いのだ。

しかし、そのロケット団という団体は大切な姉の両親を奪った奴等なのだから話は別問題だ。

姉はきっと、ロケット団だからといって全員が全員、酷い人だとは限らないと言って自分を止めるだろうが、それはあまりにも甘い。

悪の組織に自分達の意志で入ったのだから、それ相応の覚悟が無ければいけない。

どんなに善人でも、悪の組織に入った以上には罪を背負っていかなければならない。

でなければ最初から悪の組織になんて入るな。以上。

「アルフやヒワダでも暴れてやがった残党ども…!」
「…よく知っているな!」

にやり、と普通のロケット団の黒装束では無い服を着ている男が笑う。

恐らくこの中で偉い立場なのだろう。

「そしてこの場においても、我らをみられたからには…」
「フフフ、そうね、タダで帰すわけにはいかないわね」

同じく黒装束では無い女が、男の言葉に続いた。

そしてその瞬間に、リナは身構えた。

『総員戦闘体勢!』

ロケット団達のポケモン  盗んだポケモンがほとんどだろうが  が一気にこちらへと落ちてきた。

ゴールドは予測出来ずにわずかに当たりながらも避ける。

だがリナは予測出来ていたのか、レディアンに技を命じ、神秘的に輝く光にまとわれた。

神秘の守り  先程土石流からリナを守った技だ。

「オイ! シルバー、リナ! このままじゃねらいうちだぜ!!」
「…」
「オイ! ……つーか、オメエずりぃぞ!!」
「なにがズルいのよ……」

悔しかったら自力で何とかしなさいよ、と相変わらずこんな時でもツンと冷たく扱うリナ。

そんなリナに、当然ながらゴールドは悔しそうに口許をひきつらせたが、今は構ってる余裕が無い事位分かる。

「くっそー、軽く30人はいやがる…、こいつらこれだけの戦力をつれて一体なにをする気なんだ?」
「……する気=Aじゃないわよ」
「もうことはすでに起こっている」

二人の言葉にゴールドが驚いたようにそちらを向いた。

「この件は人災ということだ。エンジュ壊滅はこいつらR団残党のしわざなんだよ」
「なんだって!?」

なんだか逆にこっちが驚いてしまう位に酷く驚くゴールド。

リナがゴールドに「あのねぇ……ここにアイツ等がいる事自体、アイツ等がここで何かしたって事でしょ」と呆れて物を言おうとしたが  今更喧嘩しても隙を作るだけなので黙っている。

「ホウ、そこまで知っているとは…。きさま一体…」

少し驚いたような、感心したような口調でシルバーを見る。

すると、どこかで聞いた事があるような容姿を持っていた。

「ん? 赤い髪…? そういえばきいたことがあるぞ。ワカバタウンやヒワダのヤドンの井戸の件で我らのジャマをしたガキというのは、おまえだな」

ワカバタウンではリナも関わったのだが、それは蛇足だろう。

「油断ならんガキだ! この場で片づけてくれるわ!!」

またどこから沸いたのか、R団のポケモン達がシルバーへと襲い掛かる。

シルバーが腰のボールに手をかけるが、別方向から繰り出された技によって、R団のポケモン達は打ち落とされた。

「ワカバタウンといえば、オレとシルバーの戦いに割って入ったヤツがいたんじゃないかと思ってたが、あれはおまえらだったのか!」

別方向からの攻撃は、どうやらゴールドが、正確に言えばゴールドのマグマラシがやった物らしい。

「今回の件といいゆるせねえ! 助太刀するぜ、シルバー!!」
「ジャマだ、おとなしく見ていろ」
「な…なにィ!?」
「あーあ、戦力外通告されちゃったわね」
「なんだその可哀想な奴を見る目!!」

流石に黙ってはいられず、せっかく格好良く決めていたのに怒り肩で突っ込む。

「フッ、余裕を見せていられるのも今のうちだ。2人まとめて片づけるまで!」

すっ、と人差し指を立てて天へ高く振りかざす。

そしてそれが合図だったかのように、遠くからゴゴゴ……という地鳴りが聞こえてきて、リナはハッとした。

「我らの切り札にまともに対抗できるかな?」

男がにやりと笑った頃には、地鳴りは大きくなっていた。

「な…なんだ!? 地震か?」
「まぁ、半分正解半分不正解って所でしょうね」
「来たな! 地盤沈下の正体!!」

その瞬間、ゴールド達の足元で地割れが生じる。

しっかり立つ事が出来なくなる位に足元が崩れ、最初から足元が不自由だったが、尚更不自由になった。

「うお!」

地面が崩れた事によりゴールドの周りは足場を無くすが、ゴールド自身はなんとか大丈夫だった。

しかし問題はそこからでてきた地盤沈下の正体=B

ゴールドはそれを見て、目を疑った。

「なにィー!?」

同時に、大地を揺らがす程に響く「ドドォン!」という轟音。

「で…でけぇ!!」

それはポケモンだった。逆に言うと、それしか分からなかった。

ゴールドにとっては見た事も無い位に大物なポケモンで、当然今までに無い焦りと恐怖を感じていた。

そしてその長い牙と大きな鼻が長い体毛から見え隠れしたポケモンは間髪入れずにこちらに迫ってくる。

勿論追い掛けてくるのだから、三人は逃げ始めた。

「うわあっ! こいつ、でけえ図体のくせして動きが速え!!」
「チッ……厄介ね」

普段あのポケモンはあんなに大きくは無い。

大体1.1mで、更に頭も良い方では無く、長い体毛に覆われている為に目の前の様子が分からずにひたすら突進を繰り返すのだが、このポケモンは大きいだけで無く、知能も良いようだ。

元々音に物凄く敏感であるが、このポケモンは特にそうなようで、ゴールド達の場所を確実に聞き取って迫っている。

しかもタイプが地面≠ニ氷≠ナある為、弱点は格闘、炎、水、草。

リナのチームに格闘も炎も草もいない。

それどころか、地面≠不得意とするタイプである電気ばかりだ。これは真剣に頭を抱えるレベルだ。

「ハハハハハ、手も足も出まい!!
 巨大イノムー!! そのガキどもを一気にふみつぶしてしまえ!!」

イノムー  それがあの茶色の塊のようなポケモンの名前だった。

「こいつが震災を起こした正体だってのか!?」
「そうだ」「そうよ」
「『こおり』と『じめん』…、2つのタイプを持つポケモンのイノムーだ。これほど広範囲の地盤をここまで崩す力! 予想はしていたがそれ以上だ!!」
「あんなデカイなんて予想外過ぎよ……」

ゴールドは全力で走って汗だくになっているというのに、二人が汗もかかずに冷静に考察を述べた。

「くっそお! だからって、逃げてばかりいられるか!」

走っていた足を止め、ゴールドはイノムーに振り返り、図鑑を構える。

「それもそうなんだけど……」と思わず足を止めるリナ。

「ニョたろう!みずでっぽう!!」

ビシィ、と指をつきだして命令をする。

だが、いつものニョたろう  ニョロトノらしくなく指示を無視された。

「あ…あれ? ど…どうした、ニョたろう!!」
「……馬鹿」

ニョロトノがとことこ歩いていってしまう。

なぜなら先程ゴールドとシルバーは通信交換≠して、そのまんまなのだから。

まだシルバーが親という事になっているのだから言う事を聞く訳が無い。

「フハハハ! こいつ、赤い髪のガキより弱そうだぞ!」

一気にゴールドとリナはロケット団達に囲まれてしまう。

「そいつらはまかせる!」
「なにー!!」
「わたしも任せたいわ。アンタ宜しくね」
「オイ!!」

面倒臭くてそう言うと、当然ゴールドが聞き捨てならないと身を乗り出した。

さて、イノムー退治はシルバーに任せるか、とリナは身を引いた。

「この女、マリルを連れてるぞ! 弱そうだ!」
「女は弱いのが定石だからな!」

ハハハハハ、と笑いながらリナを囲む。ゴールドを囲んだ奴等とはまた少し違うようだ。

はぁ……と思わず溜め息を漏らしてしまう。

それに対してロケット団達が眉根を寄せて、不思議そうにする。

「アンタ等馬鹿でしょ。何見た目と常識で決めてんのよ」

やれやれという顔で首を振ると、ロケット団達が怒りを露にしたように目を吊り上げ、ポケモン達をリナに放った。


「いいわ。後悔させてあげる」


にっ、と笑うリナ。その顔は自信に溢れていて、まさに天才の顔だった。

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