「ん…? 塔からもれるあの光は…!」

エンジュのスズの塔から少し離れた場所まで近付いた時、塔のてっぺんから漏れた光に気付いた。

まるで船に場所を知らせる役割がある灯台の光のようだ。

「誰か…いるのか?」
「まぁ、ポケモンの技でしょうけど、人に寄り添ってなきゃ、あんな器用に光を漏らせないでしょうね。ましてや、自分の場所をあたかも伝えるようには、ね」
「そうだな……このミカンって娘は避難所にもいなかったし。このあたりは停電してるはず…」
「もしかすると、いるかもしれないわね。アソコに」
「ああ!」

ゴールドが塔に向かって駆け出し、リナもそれに続いて軽く地を蹴る。

と、その時、ぐらぐらという揺れが二人とそのポケモンの体全体を襲う。

リナの体を通して、揺らされる感覚に気付いたマリルがびたっとくっついて非常に鬱陶しかった。

「また余震か!? 今度のはでけえ!!」
「……塔が」
「あん? 塔?   って、うおおっ!!」

小さく呟くような声音のリナの言葉に、塔に振り返ると、今の揺れでズズズ……と地に沈んでいく。

「こんなデカい塔が! オモチャみてえに!!」
「早く塔の内部に行かなきゃ、完全に沈んじゃうわね」

そう言って、ゴールドの事も構わずスタスタと塔に歩んでいく。

置いていくな、とばかりにその後を、ゴールドが必死に着いていった。


# # #



マダツボミの塔の時と同様に窓から入ろうとしたが、キキョウよりは人も多く、観光客も多いエンジュはそんなヘマはしないらしく、開いていなかった。

だがそんなの関係ねぇとばかりに、リナはモココに何の躊躇いも無く窓を壊させた。

どちらにせよ、この塔は地に帰る運命にあるのだ。窓の一枚や二枚、どうなろうと構わないであろう。

内部に足を踏み入れれば、そこは立派な塔だった。

機械仕掛けでは無く、正真正銘ただの塔だ。

なんだか、無意識に人をハゲにしようとし、なんとかネンと付けようとする坊さん達が居ないかとか思ったが、ここは普通の塔。

そんな事を考えていたら、ゴールドも中に足を踏み入れてきた。

「なんとか塔には入れたが…オ  イ!!」

とにかく二人は奥へ奥へと駆け出す。

「誰かいんのかぁ〜!!?」
「喧しい。ただ闇雲に走るんじゃないわ。さっき光ってたトコまで行くのよ」
「なっ……わかってるっつーの!」
「絶対嘘ね……」
「嘘じゃねぇし!!」

そう言えば、リナは全く信じてないのか、やれやれと首を振った。

ゴールドはそれに対して口元を引き吊らせた。

それが喧嘩の合図かのように、いつものようにやいのやいのと口喧嘩し始める。

売り言葉に買い言葉。

リナが売り言葉を言って、短気なゴールドが買わない訳が無い。

「見えた! あれだ!」
「見えたわ。アレね」

チカチカとした光に二人が同時に声を合わせて言うと、互いに横目で睨み合う。

「!」

広い場所に出ると、灯りがこっちに向き、眩しく二人を照らす。

薄暗い内装にいたからか、目が慣れずに思わず目を瞑ってしまう。

だが、段々と明順応してきて何度か瞬きをしてから目をゆっくりと開けた。

すると赤みがかった茶髪で、ギラギラと光る瞳を持ったシルバーが女の子を抱えていた。

どうやら眩しい光は、シルバーの傍にいるデンリュウがオデコの球体から出す灯りだったようだ。

そこまでリナの思考が行き渡った時にはゴールドも目を開けれるようになったらしく、シルバーを見て驚く。

「シルバー!? どうしておまえがここに!」
「またおまえ等か…」

リナまで一括りされ、ちょっとムッとする。

しかしゴールドが身を乗り出したので言うタイミングを失った。

「その子をどうするつもりだ!」
「別になにもしない。偶然、見かけたから助けただけだ」
「可哀想に。その子、売られちゃうのね」
「だからなにもしないと言ってるだろ……」

冗談めかした言葉に、シルバーは少し脱力する。

「笑わせんな、おまえが人助けだと!? まさか本当に売る気じゃねぇだろうな!?」

ゴールドがそういうと、シルバーは手に抱えていた子をゴールドに押し付けた。

「うわっ」と言いながら半ば反射で女の子を受け止める。

「ならおまえが持っとけ」
「な…」

何か言おうとしたゴールドだったが、踵を返したシルバーに何も言えなかった。

かと思えば、シルバーはしゃがみこんで何かを弄り始めた。

一体何をしているのかと思って、シルバーがしゃがみこんだ場所を見ると、そこはポケモンの彫像らしかった。

プレートを見てみると、「HOUOU」と書かれている。

見たこともないポケモンに不思議に思っていると、横でジト目で見てくる少女が約一名。

「……なんだよ」
「別に。……不純異性行為」
「お前はガキかよ……」
「何ですって? わたしのどこがガキなのよ!」

ゴールドの呟くように言った言葉が聞き捨てならなく、眉根を寄せて怒鳴った。

実際、異性交遊の件に置いては、どうも子供っぽいというか。

異性で手を繋いだり、抱き締めあったり、接吻をするというのが不健全に感じてならないのだ。

どちらかというと考え方が固いのかも知れない。

そんな事を思っている内に、また余震が起こってしまう。

「いけね、こんなとこでゆっくりしてらんねえぜ」
「……」

ゴールドがヤバいと女の子を抱えながら、早足で出口へと向かう。

しかしその隣を行くリナは無言で辺りを見渡している。

ヤバい、これは本格的にヤバいかも知れない。

先程から段々と空気の出入りが無くなっている。

という事は、しばらくすればあっという間にリナごと埋もれてしまうかも知れない。

そんな時にドドドドドと音がする物だから溜め息を吐かずにはいれない。

「ん? なんだ、この音」
「早くここから離れるわよ」
「は? なんで……」
「早く!」

そのリナの言葉通り、先程よりも早足でその場を離れる。

すると、先程までいた場所の壁が突き破られ、そこから土砂が流れ込んできた。

「わ  っ!!」

思わず驚いたように叫び、顔を青くする。

「土砂がここまで! く…くそ!」
「ヴェルテ! 壁を押さえるのよ!」

モココがボールから出てきて、持ち味の怪力≠ナ土砂の流れ込む壁を押さえ込んだ。

しかしやっぱりまだ小さい体には辛く、押し返されそうだった。

その時、モココの隣で大きなポケモンが壁を押さえた。

「このポケモン……」
「シルバーのリングマ!」

嗚呼、そうだった。あの凶暴なリングマだ。

どこかで見たことあるな、と思っていたリナは納得したように頷いた。

そんな内にも、ゴールドとリナが入ってきた入り口が閉ざされそうになる。

「くそ、出口が…!!」
「なにをしている! その子だけでも外へ出せ!!」
「!」

リナは少しだけ驚いた。

自分が真っ先に出口に向かうのでは無く、少女を優先させるなんてと。

「おい、おまえ! その子を頼むぜ!」

少女のポケモンらしいデンリュウが、少女を背に出口へと駆けていき、飛び出していった。

「やった!」

ゴールドはガッツポーズをし、リナは安心したように誰にも気付かれないように安堵の溜め息を吐いた。

だが、同時にリングマとモココの限界が近いようで、汗を垂らし歯を食い縛っていた。

そして限界に達し、手を離して逃げ帰った。

「うわっ!!」

すると当然、瓦礫と土砂が同時に中へと流れ込んできた。

「ギ…ギリギリ間に合ったな…」
「……」

シルバーは無言でリングマを戻し、リナは褒めて褒めてとばかりに擦り寄ってくるので仕方無しに頭を撫でてから戻した。

「しかし…今度はこっちが閉じこめられたぞ。急がねーと、オレたちもますます外に出られなくなるんじゃねーか?」
「そうね。正に、ミイラ取りがミイラになった感じね」

上手い事を言っている場合では無い。

先程からズズ……という音が止まずに、絶える事が無かった。

どうやらかなり速いスピードで沈んでいるようだ。

シルバーとリナが現状把握に勤しんでいると、ゴールドが寒さでぶるると震えた。

「なんか暗いし寒いな…」

確かに寒いのが苦手なリナも、そう思っていた。

「丁度いいぜ、バクたろう!あかり≠セ!!」
『!!』

ゴールドがそう言ってマグマラシがボン、と音をたてて、背中から炎を出した。

それに対して二人がハッとする。

「オイ! 密閉されているんだぞ!! ここで炎を使ったら、あっというまに酸素が尽きるだろう!!」
「その通りよ。アンタ、馬鹿じゃないの? 死にたいの?」

シルバーに胸ぐらを掴まれ、リナに絶対零度の視線を浴びせられ、ゴールドがカチンと来ない訳が無い。

マグマラシがわたわたと三人から離れた。



[ back ]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -