「勝手にわたしが孵して良いのか……」
「まぁ、普通の奴に孵せるかも謎じゃからな」
「だからわたしをこき使うと」
「そういう言い方をするな!」

だってそう言う事じゃないか。

ブツブツ文句を垂れていると、焦れったそうにタマゴを無理矢理押し付けてきた。

「これ持ちながら戦うの……?」
「良いじゃろ。減るものでもあるまい」
「いや、かさばるし、潰されでもしたら減るわよ」
「そんな事、天才≠ヘしないじゃろう?」
「な……」

いつも自分を天才≠ニ自負している分、プライドに触れ、なんとも言えなくなった。

そして思った。コイツ……上手い!   と。

「ッ……わかったわよ!! やってやろうじゃない!!」
「よく言った!」

言わせたんだろ、とか言うツッコミをする暇は、もう彼女には無かった。

リナは自分のポケモン達と共に、大勢のポケモン達に向かい合った。

基本的に、みんな好戦的だが、特に好戦的なマリルは身を乗り出す。

目の前の先頭は  カイリュー。

おい待て誰だカイリューなんて預けた戯け者は馬鹿なの死ぬの?

一瞬でそんな事を脳裏によぎらせたが、逆に望む所だと口元に弧を描かせた。

「行くわよ、アンタ達!」

そんな主人に、よりポケモン達のボルテージが上がる。

「おっと、その前に」

突然の言葉で、ボルテージが下がりそうになる。

マリルなんて急に勢いを失った物だから、頭から地面にダイブしてしまう。

出来れば水の中にダイブしたかった。

「シャルフ、進化≠諱v

手の中にキラリと光る石を見れば、イーブイはコクリと頷き、地を蹴って自ら石に向かっていった。

次の瞬間に地に足を付けている頃には、体がトゲトゲな黄色の体毛を持ったサンダースになっていた。

ようやく、この時が来た。

見ていたお婆さんも、ほう、と感心しながらサンダースとリナを眺めている。

「これで役者は揃ったわ! 行くわよ!」

先ほどの倍、ポケモン達は強い瞳で頷いた。

「マリル丸くなる≠ゥら転がる=I シャルフミサイル針=I クレールスパーク=I ヴェルテ充電≠ゥらの放電=I エネル銀色の風=I」

間合いを見て、各々に技名を命じる。

だが、ただ命じるだけじゃ無い。

技を生かし、タイミングを見計らい、ポケモン達にどうしてその技を命じたのかを  分からせる。

「なるほどな。ただの自意識過剰じゃ無いようじゃな」

これは本物だ。

面倒臭がら無ければ、それなりの実力者。謂わば原石だった。

と、  その時だった。

リナがピタリと足を止め、チョンチー、メリープ、レディバに目を向けた。

すると、3匹の体が光り、なんと、体形を変えていくではないか!


「計画通り」


全てが予定調和。全てがこの少女の手中。全てがお見通し。

そう思える位に彼女の顔は余裕で、不敵で、そして凛としていた。

これでチョンチーはランターンへ、メリープはモココへ、レディバはレディアンへと進化した。

イーブイも合わせれば、この数分で四匹も進化した事になる。

逆に、今まで進化していなかった事が不思議な位だ。

否、想像はつく。面倒臭かったのだ。

「本当に、育て屋の素質があるの。あやつは」

タマゴから生まれたポケモンになつかれ、ポケモンを容易に成長させて見せる。

是非とも育て屋になって貰いたいが、育て屋という枠だけに入れているのも勿体無い。

もう少し広い世界に役立つ事をするべきだ。

例えは思い付かないが、過去にユキナリ  オーキドがそんな事をしたいと願っていた。

どうやら彼女はオーキドと顔見知りのようだから、将来、きっと彼の役に立つだろう。

  育て屋をやりながら。

やはり育て屋をやってもらうのは譲れないらしく、今から手伝って貰う事を考え、お婆さんは悪どくも笑いが止まらなかった。


# # #



それはラジオからの臨時ニュースだった。

エンジュシティに震災が発生してしまったのだ。

原因不明の大規模な地盤沈下が発生したとの事だ。

育て屋老夫婦に衝撃が走った。

普通のニュースなら「ふむ、大変じゃなズズズ」とお茶を啜りながら聞き流す事が出来るのだが、今回はそうはいかない。

なぜなら、そこにはミカンという少女がいるのだから。

二人にとってミカンは客であり、娘のような存在だった。

だから、頭を悩ませ、背中に冷たい物を這わせるのは当然の事なのだ。

そんな時にお婆さんは、ある事を思い付いた。

丁度使えそうな奴が二人もいる、と。

その時点で、ゴールドは訓練に一段落し、リナはもう全員とバトルして勝ち終わり、比較的小さなポケモンになつかれて潰されそうになっていた。


# # #



エンジュシティの地盤沈下は本当に酷い物だった。

足を踏み入れた瞬間に、壊れてしまった家の破片があちこちに転がっていた。

そのせいで足元が不安定だった。

「こりゃひでえや」

隣で唖然としたようにゴールドが呟いた。

そして、一枚の写真を取り出し、言う。

「さて、この子が災害にまきこまれてねえかを確かめるか!」

その隣で、リナはやれやれと肩をすくめながらも、きちんとエンジュシティに向き合っていた。

なぜコガネシティにいたはずのゴールド達が、エンジュシティにいるかというと、時間は少し遡る。

「探してほしいのは、この子。名前はミカン」

その名の通り、彼女はリナと同じ蜜柑色の髪を輝かせ、お爺さんと共に写っていた。

風格は御嬢様といった感じだ。

「えー、なんでオレがー?」
「わたし、人の頼みなんか聞かないし」
「力を身に付けるのは人の役に立つためじゃぞ。それとも自信がないかの?」

相変わらず、とても人を乗せるのが得意なお婆さんだ。

そして案の定、ゴールドは少し怒った顔で「やる」と言ってしまった。

「地震でも雷でも持ってこいっつーの!!」
「フフフ。そーこなくちゃ」

お婆さんはお得意の不敵な笑みで笑う。

「なかなかがんばったな、と言いたいが、わしがお前さんに教えたことはポケモンバトルの基礎だけじゃ」

お前さん  ゴールドの事らしい。

なんだかリナは置いてけぼりな感じがして虚しいのだが。

「これからは、自分のセンスで腕をみがくがよい。成長を楽しみにしておるぞ。どれ、がんばった褒美をやろう」

そう言って、少し歪なガラクタをゴールドに渡した。

「『おうじゃのしるし』。持っているときっと役に立つ」

ガラクタかと思えば、『王者の印』という道具らしい。

確かに名前だけは聞いた事ある。

「そしてお前さん」
「ん?」
「いずれは育て屋の看板となるのだから、身嗜みをきちんとな」
「オイちょっと待て。なんでいつのまにか話が飛んでるのよ」

育て屋になるなんてリナは一言も言っていないのだが。

「しかもわたしには褒美は無しかい」
「お前さんにはタマゴを渡したじゃろ」
「否、それも仕事を押し付けただけじゃ  
「さぁ、行ってくるのじゃ!」
「誤魔化されたし」

まぁ、何はともあれ、二人はこうした経緯があって今に至る訳である。

経緯をリフレインし終えると、丁度その時、エンジュシティが揺れて瓦礫が音を立てて軽く崩れた。

「! 余震か!」
「また一段と地盤が沈下したかもね」
「よし! 急ぐぞ!!」
「はいはい」

ゴールドは、リナが返事すると満足し、マグマラシに目を移し、走り出した。

「行くぜ、バクたろう!」


勧誘の手を凪ぎ払い
(誰かの言いなりに)
(なるつもりは無い)


131205

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