「こっちこっち、早くせえ」
「どこ行くんスか?」
「裏口の飼育所じゃ」
(意外と広いわね。見た目の割りには)

二人とそのポケモン達は、育て屋のお婆さんに連れられ、内部を練り歩かされていた。

外観の割りには中々に広い空間だった。

そんな時、ゴールドは薄く開いた扉の中をチラリと見、気になったものだから中へと入っていく。

「おお! すげー本の山!」
「そこはじいさんの資料部屋じゃ」

中へ入ると、古い本独特の甘い薫り  お菓子や果物等とは少し違う  が鼻をくすぐる。

少し埃をかぶった本達があちこちに塚を築いている。

中には埃をかぶっていない本もある。つい最近も触ったのだろう。

本なんて見始めたら5秒で眠ってしまいそうなゴールドが、よく本になんて興味を示した物だ。

ふと、当人のゴールドは何かを見つけた。

「『ポケモンリーグ歴代入賞者名鑑』?」
(嗚呼、あの時の……)

リナは3年前のあの場面を思い出した。

『レッド君』が優勝したあのリーグ。そして、その一年後に『レッド君』が四天王に狙われ、ルナが探しに行く為に飛び出すきっかけ。

姉が勝負を捨て、ブルーという少女に道を正し、図鑑を手放し、泣く事も無くなった。

あの時の姉の向日葵のような笑顔を思い出すと、胸が熱くなり、切なくもなる。

自分は姉になにもしてあげられていない。

いつも『レッド君』に良い所を盗られてしまう。

自分が情けなくなり、目の前が暗く沈んだ感覚に陥る。

  って、あれ……」

ハッと気付いた時にはゴールドとお婆さんはいなくなっていた。

自分を置いて行ってしまったのか、薄情な奴等め。

ブツブツと愚痴を溢しながら、テーブルに置かれた『ポケモンリーグ歴代入賞者名鑑』を手に取る。

開かれたページには前回優勝者のレッドが載っていた。

ニョロボン、フシギバナ、ピカチュウ、カビゴン、イーブイ、ギャラドス、プテラと共に晴れやかな顔で写っていた。

だが、そのページには目も呉れず、身も心もトゲトゲなグリーンに目を  移さず、ピースで写るブルーにも目を移さず、すぐさまルナに目を移した。

我が姉ながらに見事な、輝かしい向日葵を思わせる笑顔でポケモン達と写っている。

なんとも可愛らしく写っていて、リナは満足すると共に、このページだけ切り取って持って帰ってしまいたかった。

勿論そんな事はしないが。

すると突然、マリルがパラパラとページを捲り始めた。

リナはまたマリルのヤンチャなのだろうと思いながら、姉以外はどうでも良いので、なんとなく眺めていた。

どんどんページは捲られ、とうとう最初のページになる。

「……ん? これは……」

なんだか見た事のある雰囲気の男性が写っていた。

「オーキドの博士!? うっわ、若! 髪黒ー! 筋肉質ー!」

ぷはっ、と笑いながら若い頃のオーキドを眺め見た。

今じゃ見る影も無い位にただの老体だ。

そんな失礼な事を思いながら、今度からかってやろうとウキウキした。

なんとなしにページを捲って見ると、ふと、手が止まる。

これも見た事がある。とは言っても、実物では無い、写真で。

これは……  

「お姉ちゃんの両親……?」

見開きで二人載っている。そしてどちらも『優勝者』と書いてある。

これは一体どういう事なのだろうか。

(ま、別にそんなの知った事じゃないけど。……それにしても、流石お姉ちゃんの母親ね。凄い美人)

ルナの母親は、ルナと同じ向日葵の髪で、琥珀色の瞳だった。

向日葵の髪はクルクルと巻き毛のようになっていて、ルナと同じように左の方で束ねられていた。

容姿は美人寄りの可愛らしい少女だ。

父親の方は、ブロンドの短髪で、童顔でヤンチャな顔をしていた。

ルナの可愛い顔は、父親の童顔から受け継いだ物らしい。

親……。リナにも勿論両親がいるはずだ。

しかし、なかなか思い出せない。これは無理矢理に記憶を抹消したとかじゃない。

本気で思い出せない。

ただ一つ覚えている事があった。

確か、緑覆い茂る場所で、綺麗な瞳を持つ誰かに  

「こりゃ、ちゃんと着いてこんかい! ……この二人は……」
「知ってるの?」
「ああ……  マリアとアルトじゃな」

トマトから聞いた事のある名前がお婆さんの口から出てきた。

「……どんな人だったの?」

普段誰の事にも興味を示す事がないリナが始めて興味を、少しだけだが抱いた。

「そうじゃな……マリアは古典的な御嬢様、アルトは熱い男じゃったわい」

聞く話によると、お婆さんはユキナリ  つまり、オーキド博士の紹介により二人を紹介されたらしい。

特に、マリアは小さな頃からお世話をしていたようだ。

しかし常識外れで猪突猛進で、苦労させられたとか。

「まぁ、そんな昔話は置いといて、こっちに来るのじゃ」
「嗚呼、はいはい……」

『ポケモンリーグ歴代入賞者名鑑』を閉じ、その場に置いてお婆さんに急かされるまま、部屋を後にした。

「ここじゃ、ホレ中へ入れ」
(ゴールドとは別なのね……)

真っ暗だが、気配でゴールドはいなく、代わりに沢山のポケモンがいる事がわかった。

ガシャン、と格子が閉められると、パッと部屋の明かりが点いた。

するとやはり多くのポケモン達がいた。

なんだか凄く動きたそうに疼いている気もする。

「今日いっぱいでこいつら全員とバトルして勝つこと。でなけりゃ、出さないよ!!」
「……やっぱりか」
「む? 驚かんのか?」
「ま、どうせ訓練の場とか言うんでしょうが、それは建前で、預かってるポケモン達の運動不足解消。そしてばあさん達が体を動かさずにのんびりお茶出来るって魂胆でしょ」
「ぐ……」

お婆さんは図星で、ぐぅの音も出なかった。

もとはと言えば、こうなる事をわかっていたのだ。

先刻のお婆さんの顔と同情したようなお爺さんの顔。

そして今、この多くのポケモン達の運動したそうにウズウズしているのを見て、確信が突いた。

「そ、そう! わしはお前さんの洞察力を調べる為にな  
「あくまでも訓練の場という事にしたいのね……」

やれやれと溜め息を吐く。

「そんな、洞察力が良く、ポケモンからも好かれやすいお前さんを見込んでこれを授けよう」
「なにこれ、タマゴ?」
「そうじゃ。お前さんなら孵せるじゃろう。先日、黒いパーカーを羽織った爽やかな少年が預けたポケモンから見つかったんじゃ」
「……」

なんだか見知った顔がよぎったが、すぐに振り払う。

アイツがジョウトに? いや、まさか。

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